連載《プリズム》

仮設の町内会

仮設の町内会

 JR東北新幹線の新花巻駅は今も田んぼの中にある。宮沢賢治を生んだ土地らしい。駅前にある童話「セロ弾きのゴーシュ」の彫刻の前に立つと、セロ(チェロ)の音色で「星めぐりの歌」を奏でてくれる。(プリズム2011年11月)

 「小さな町内会」をたずねたいと訪れた今回の岩手。しーんとした静かな駅前で、少し冷たい風が黄や赤に色づいた木々をなびかせていた。

 小さな町内会とは、これまでもお伝えしている、釜石の仮設住宅のコミュニティのこと。釜石市にある50の仮設群(3158戸)の1つ、平田多目的グラウンド(240戸)のサポートセンター付きケアゾーンである。棟と棟の間の通路にウッドデッキを渡して屋根をつけたので、テーブルといすを置けば、おしゃべりゾーンになる。76歳の高橋フヂさんは、居室5畳という狭い1人住まい用仮設住居から出て、よくテーブルに座って、ご近所と話をしたりお茶を飲む。釜石の両石湾と大槌湾を挟む箱崎半島に住んでいた。釜石の中でも最も被害が大きかった地域のひとつ。村人10人で小高い一軒家まで逃げ寒い寒い一夜を送った。4年前に介護のすえ見送った夫らと住んだ家は流された。

 「今朝、車に乗せてもらい久しぶりに箱崎に行き、家のあった場所に立ちました。紺碧の海も、あの時の津波は真っ黒でした」と高橋さん。そうした話を聞いていた時に、学校が終わり、ランドセルを背負った小学生が帰ってきた。優しそうな目でその子を数軒先に入るまで見守る高橋さん。そこへお裾分けと言って、サケの切り身をお隣さんが持ってきてくれもした。移動販売が来れば、デッキには商品が並ぶ。

 朝夕の見守りがいい効果と生んでいるサポートセンター長、上野孝子さん(53歳)。「閉じこもりのよる活動低下のおそれや、栄養状態の悪化、感染症、それに火災などが心配です。要観察者は朝昼晩の3回、その他は昼間1回、巡視員が『おはようございます』『一日変わりなかったですか』と回っています。ひとりでは声が上がらなくても、デッキや巡視員の声がけでお互いの存在がより近くに感じるのでしょう」。支援スタッフには震災で家族や利用者を失い心身を病む人も多いと話す。小さな町内会はそうして支えられている。

(シルバー産業新聞2011年11月10日号)

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