支える現場を踏まえて

支える現場を踏まえて (94) 柴田範子 認知症があっても地域で安心して暮らせるように [2018/02]

支える現場を踏まえて (94) 柴田範子 認知症があっても地域で安心して暮らせるように [2018/02]

  昨年春、川崎駅近くの大型ショッピングモール内の店舗で、小規模多機能「ひつじ雲」の利用者A氏がお菓子を店舗外へ持ち出し、袋を開けているところを店員に見つかり、警察に預けられたことがあった。

 店へ謝罪に伺った際、店長さんからは「2度と来ないようにさせてください。認知症だろうと何だろうと、我々には関係ないですから」と、厳しい言葉を投げかけられた。2度目には、警察からも、「そろそろ施設のようなところが良いのでは」と言われた。 A氏は、この大型ショッピングモールができる前から、この近隣に住んでいて、この地域は散歩コースになっている。認知症と診断されてからも、ずっと朝夕に杖をつきながら散歩をするのだ。それがA氏の日常だし、結果として歩ける足を維持しているのだと思っている。

 A氏は、この大型ショッピングモールができる前から、この近隣に住んでいて、この地域は散歩コースになっている。認知症と診断されてからも、ずっと朝夕に杖をつきながら散歩をするのだ。それがA氏の日常だし、結果として歩ける足を維持しているのだと思っている。

 A氏の日常がこのまま続けられるよう、役所に足を運び、大型店舗内でも認知症サポーター養成研修等が行えて、少しでも認知症の人のことの理解が進むようにとお願いをしてきた。一方で、「もう変わらないでしょ」と真剣に診察しているとは見えない医師に対しては、A氏と彼の元妻の了解を得て替えさせてもらった。新しく担当となった医師は、薬を替えてはしばらく様子を見て、何度か調整してくれ、その結果A氏の状態は落ち着いた。
 12月中旬、1日数回に分けて店長会議が行われるという時間を少しだけ分けていただき、ミニミニ認知症サポーター研修を行わせてもらった。役所の方々が諦めずに足を運んでくださったことが、小さな蕾となったのだ。

 1回目の研修が終わり、外の空気を吸いたくて外に出ると、何とA氏が杖をついて散歩をしている後ろ姿があった。すがすがしい気持ちになった。

 年末、早朝に訪問した職員が、サンダルを履いたままベッドに横になっているA氏を見て、「いつもと違う」とひつじ雲に連絡してきた。しばらくすると意識がはっきりとし、起き上がって歩行もできたのだが、念のため担当医に電話をして指示を受けた。

 一人暮らしのため、急激に体調変化することもあるかもしれず、ひつじ雲で日中を過ごし、一晩泊まることにしてもらった。年末というのに、医師が往診してくださり、A氏の落ち着いた様子にホッとした様子だったと、職員から連絡を受けた。

 年が明け元旦、A氏は言葉がうまく理解できていない様子で、言葉と実際の行動がちぐはぐだと言う。夕方、ひつじ雲のケアマネジャーと元妻が、A氏とともに総合病院へタクシーで向かい受診した。慢性硬膜下血腫との診断を受け、そのまま入院することに。そして、翌2日には手術をした。

 予後はとても良く、「1週間ほど入院し、その後転院か在宅かの選択ですね」と手術を担当した医師から元妻が言われたと、ケアマネから報告があった。

 認知症の人の長期入院は、元の生活に戻ることがかなり厳しくなることを、私たちは何度か経験している。そのため、何とか家の近くで散歩が続けられるようにひつじ雲で見守りたいと、病院側に伝えさせてもらった。もちろんそれはA氏の希望であり、元妻も了解してくれた。

 今では、A氏はこれまでと何ら変わらずにひつじ雲に通ってきている。そして、得意のハーモニカで、「ふるさと」や「浜千鳥」を堂々と吹き、そばにいる皆さんに感動を与えてくれている。

(シルバー産業新聞2018年2月10日号)

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