生き活きケア
「間違えても大丈夫」 認知症の人が働く沖縄料理店/ちばる食堂(岡崎市)
ちばる食堂(愛知県岡崎市)は認知症の人が働く沖縄そばのお店。介護になじみのない人が認知症の人を知る機会を作ろうと介護福祉士の市川貴章さんが立ち上げた。認知症の人が当たり前のように働いているなど、一緒に生活することが日常になった社会を作りたいと市川さんは話す。
閑静な住宅街にオリオンビールの提灯を下げた建物がある。沖縄料理を提供するちばる食堂だ。全国でも珍しい認知症の人が働くレストランで、介護福祉士として約20年働いた市川さんがおととし開店した。入り口までは脚の不自由な人や車いすの人でも入りやすいようにスロープになっており、暖簾には「沖縄そばとゆんたくのお店。」の文字。ゆんたくとはのんびりお話しましょうという意味の沖縄言葉だ。
引き戸を開けると「いらっしゃいませ」と朗らかな声。この日働くのり子さん(70代)が出迎えてくれた。店内のテーブルと椅子には大きく番号が書かれている。料理の提供先を間違えないための工夫だ。また、メニューをめくると1ページ目に「認知症の人が働いています」と一言。お客さんにも理解を促す。
店内は認知症のホールスタッフ2人とオーナーの市川さんの3人で運営する。
のり子さんは「接客業ですから、間違えないことは特に意識しています」と話す。以前はカラオケスナックを経営していたが、認知症の進行に伴い、店をたたむことになった。外出する機会が少なくなったことを心配した地域包括支援センターの職員が市川さんに相談し、食堂のオープンから働くことになった。この日はしなえさん(89)も出勤。80歳まで布団の仕立て屋をしていたが、仕事を辞めてから、家にいる時間が長くなり認知症が進行してしまった。家族から、何とか外出の機会を確保してほしいと、働くことになった。
働きやすさはみんなの思いやりから
のり子さんは接客業の経験を活かしてテキパキと、しなえさんはゆっくり丁寧に働く。主に注文はのり子さんがとるが、スナック経営時にはわざわざメモをしなかったことから、注文を忘れて聞き直すことも。そうするとお客さんはメニューを指さしながらゆっくりと注文を繰り返してくれる。そこで、のり子さんも丁寧にメモを取って、厨房の市川さんに伝える。
調理場はオープンキッチンになっており、店内全体が見渡せる。市川さんは料理をしながら、必要があればすぐにフォローができる。
しなえさんが市川さんから「1番テーブルへお願い」と料理を渡された。運んだ先は別のテーブル。運ばれてきたお客さんは「あれっ?」という表情を浮かべ、しなえさんも状況がわからないといった表情。すると隣のテーブルから、「こっちです」と呼ぶ声が。「すみません。間違えてしいました」と持っていくと、笑顔で「大丈夫ですよ」と受け取ってくれた。
食後の皿洗いはしなえさんが受け持つなど、お互いの経験や得意なことが生かせるように作業を分担している。
調理場はオープンキッチンになっており、店内全体が見渡せる。市川さんは料理をしながら、必要があればすぐにフォローができる。
しなえさんが市川さんから「1番テーブルへお願い」と料理を渡された。運んだ先は別のテーブル。運ばれてきたお客さんは「あれっ?」という表情を浮かべ、しなえさんも状況がわからないといった表情。すると隣のテーブルから、「こっちです」と呼ぶ声が。「すみません。間違えてしいました」と持っていくと、笑顔で「大丈夫ですよ」と受け取ってくれた。
食後の皿洗いはしなえさんが受け持つなど、お互いの経験や得意なことが生かせるように作業を分担している。
特別ではなく普通のお店に
開始時はメニューを少なくしていた。しかし、今はそばだけで10種類以上。徐々に増やしていったが、間違いが特段増えることはなかったので、普通の食堂と同じくらいのメニュー数で運営することにしたそうだ。
メニューが充実すればお客さんが増え、のり子さんたちを知る人が増えると市川さんは期待を寄せる。
メニューが充実すればお客さんが増え、のり子さんたちを知る人が増えると市川さんは期待を寄せる。
(シルバー産業新聞2021年5月10日号)