生き活きケア

昭和の暮らしを忠実に再現/特別養護老人ホーム「高浜安立荘」(高浜市)

昭和の暮らしを忠実に再現/特別養護老人ホーム「高浜安立荘」(高浜市)

 社会福祉法人昭徳会が運営する特別養護老人ホーム「高浜安立荘」(愛知県高浜市)は認知症ケア「回想療法」を実践する環境づくりを徹底している。2階の一角には昭和の街並みを再現した「昭和横丁」を作るなど、利用者が昔を懐かしむ道具があふれている。地域のイベントでは道具を使って料理をふるまうなど、地域づくりにも携わってきた。(生き活きケア 155)

見て・触れて・動かして思い出す

 回想療法は昔の写真や道具に触れて思い出を語り合うことで記憶を呼び戻し、脳の活性化を促す手法。自発性や集中力の向上、コミュニケーションの促進などに効果があるとされる。

全て寄付で100点以上が集まった

羽釜を使ってお米を炊いていた頃を思い出す

羽釜を使ってお米を炊いていた頃を思い出す

 高浜安立荘が取り組む回想療法で最もこだわったのは「日常生活の中で思い出す」環境づくりを徹底したこと。

 そのための道具は高浜市内にポスターを掲示するなどして、住民の建て替えや引っ越しのタイミングで不要になったものを募った。するとなんと、黒ミシンや千歯こきなど大正時代から昭和中期ごろまで使われていた道具が、100点以上も寄せられた。

 「寄付していただいた道具は実際に動くもの、使えるものがほとんど。昔話をするだけでなく、ミシンを踏んだり、唐箕(風で玄米ともみ殻を分けるもの)を回したり『実際に動く物に触れる』ことでより強く記憶を呼び起こします」と施設長の中村範親氏は話す。

 道具はいつでも触れられるよう、施設の様々なところに置かれている。大きな羽釜を寄付してもらった際には、かまどを作り、イベントなどで利用者に炊き出しをしてもらっているそうだ。

昭和初期~中期の街並みがそのままに

 環境づくりで特にこだわったのが、2階に忠実に再現した昭和の街の一角、「昭和横丁」。駄菓子屋、銭湯、家屋の一室が並び、まるでタイムスリップしたかのよう。銭湯に見立てた浴室には大きな富士山が描かれ、昔ながらの雰囲気を感じることができる。駄菓子屋ではイベントで実際に販売を行う。

 「生活の中に当たり前に存在することで、いつでも当時と同じ体験ができる環境になっています」(同氏)。

思い出せば会話が広がる

 集団ケアは、毎回2人程度の職員が4、5人の利用者と3カ月を1ブロックとし、遊びや音楽、料理などのテーマを設定して行う。

 例えば遊びがテーマの場合、お手玉やけん玉を取り上げる。お手玉は中の素材(麦や小豆があり小豆は高級)や縫い方(俵型と丸形)、合わせる歌など土地や時代により違いは様々だ。利用者同士で共通部分を見つけるとうれしくなり、歌に興味を持つと「その歌教えて」と教え合ったりして、会話が弾む。

 家屋を再現したスペースを使うことで、自宅にいるような安心感が得られ、より意欲的に参加してくれるそうだ。

 月に一回は日本福祉大学リハビリテーション学科の来島修志助教授にチェックを受ける。終了後は会話の流れで自然に道具を出すタイミングや、利用者の当日の状況に合わせた会話の運び方などのアドバイスを受け改善を図る。

 また、利用者自身が暮らした土地のことや道具の使い方を思い出すことは職員との会話にもつながる。「育った土地が同じであったり、道具の使い方を教えてもらうことは、特に若い職員と利用者の会話のきっかけになります」。と中村氏。先日、ダイヤル式の黒電話を間違ってプッシュする職員が現れ、皆で驚いて笑いながら教えていたそうだ。
昭和横丁に設けられた家屋の一室

昭和横丁に設けられた家屋の一室

(シルバー産業新聞2020年3月10日号)

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