現場最前線の今

当事者たちを現場採用し、自己実現を後押ししよう/中山清司(連載146)

当事者たちを現場採用し、自己実現を後押ししよう/中山清司(連載146)

 海外では、マイクロソフトやアップルといったIT企業でアスペルガータイプの人たちが働き、彼らIT技術者のことを「シリコンバレー症候群」とも呼び肯定的に認知されている。アートの世界では、昔から自閉症・発達障がいの人たちの作品が注目され、イギリスのスティーヴン・ウィルシャーや日本の上田豊治など著名なアーティストが何人もいる。

自閉症支援、ロングライフサポートの時代へ(23)

 自閉症で動物行動学者のテンプル・グランディン(米国)は、すでに1990年代に「自閉症の才能開発」を著し、自閉症の独特の世界観、脳の特性を指摘し、その可能性を強調している。

 このような流れの中で、近年、脳多様性(ニューロダイバーシティ)という概念で自閉症・発達障がいを捉えるようになり、わが国でも、東京大学先端科学技術研究センターの「異才発掘プロジェクトROCKET」などの取り組みへとつながっている。

 しかしながら、障害福祉サービスの業界を見ると、そこが現場最前線でありながら、自閉症や発達障がいの人たちは相変わらず福祉・ケアの対象という固定観念から離れられないでいる。実際、施設入所者の中には、発語もなく身辺介助が必要な重度知的障がいを伴う自閉症の人や行動障害の激しい人がいる。すると「パニックにならないように」「事故が起こらないように」ということが優先され、利用者は施設や事業所の中で、日々刺激の少ない単調な時間を過ごすだけとなり、新たな学習の機会やチャレンジする場を与えられずにいるのではないだろうか。
 当事者たちが現場スタッフや運営パートナーとして働くことで、旧来の福祉業界の秩序、暗黙の了解を見直す機運になると筆者は期待している。

 自閉症・発達障がいの人たちの多様な働き方・生き方を保障し、彼らの自己実現を後押しすることは、本来、福祉の理念に沿った取り組みだ。福祉業界が、まずは自分たちの足元からその取り組みを始めてほしいと思う。

 具体的に、福祉現場ですぐにでもできることを3つ提案する。

 ① あなたの施設・事業所を利用している(あるいは知人や関係者でも)自閉症・発達障がいの人を思い浮かべてください。その人たちの中で、現場スタッフや管理職の仕事を何か担えそうなら、その人に実習の機会を設けましょう。例えば、館内清掃・ガーデニング・荷物運び・書類の整理・パソコンを使ったデータ入力・厨房の食器洗い・消耗品の補充・日中作業の準備・教材作成などが考えられます。仕事の一部分で構いません。自分たちの施設・事業所のどこかに当事者が働く機会がないか、あれこれ探してみましょう。

 ② あなたの施設・事業所で、現場スタッフや管理職が専有しているスペースを、利用者も使えるようにしましょう。聴覚過敏の人にとって、理事長室や施設長室は集中して作業ができる快適な場所になるかもしれません。職員室は事務仕事の宝庫です。駐車場に停まっている公用車は、洗車の仕事の機会になったり、外仕事の休憩場所に活用できるかもしれません。

 ③ あなたの職場で、当事者が現場スタッフや運営パートナーとして働くようになったら、それを積極的に公表し内外にアピールしましょう。そのことで、助成金や新たな仕事を紹介されたり、当事者たちから実習希望の話が出てきたりすることでしょう。施設や事業所は自閉症・発達障がいの人たちの働く場として再定義され、そこから新たな価値が創造されることにつながります。
 中山清司(特定非営利活動法人 自閉症eサービス理事長)

(シルバー産業新聞2019年6月10日号)

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