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ADHDの人の就労支援~カズキさんのケース①/中山清司(連載147)

ADHDの人の就労支援~カズキさんのケース①/中山清司(連載147)

 発達障がいの青年が、障害福祉サービスの職場(=障がい者福祉施設)で働いている事例を紹介しよう。なお、本事例は、筆者の経験・取材に基づくが、関係する個人や組織が特定されないように内容・表現をアレンジさせていただいていることをご承知いただきたい。

自閉症支援、ロングライフサポートの時代へ(24)

 カズキさん(仮名)は20代後半、大学を卒業するが就職はうまくいかなかったという。どの仕事も長続きせず、転職を繰り返した。精神的に不調な時期があり、精神科クリニックを受診、そこで初めて自閉症スペクトラムとADHD と診断された。その後、発達障がいに特化した就労支援事業所に通所するようになり、精神障害者手帳を取得、障がい者雇用を前提とした就職活動を本格化させた。

 当初、就労支援担当者もカズキさんも、一般事務職で働けるところを探していたそうだ。体力や運動面に自信のないカズキさんは長時間の荷物運びや清掃の仕事は、当初から考えられなかった。また、手先が器用なほうではなく集中力も長く続かないので、製造関係の仕事も向いていないように思われた。大学時代からスマートフォンは日常的に使っており、授業でもパソコンでレポートを書いたりデータ入力をしていたりしていたので、事務仕事はできそうだと捉えていた。漢字検定やパソコン検定の履歴も自分のアピールポイントになると思われた。
 しかしながら、実際に職場実習などで事務仕事をしてみると、さまざまな困難が明らかになったという。

 1つは、伝票や社内文書の数字や文字を扱う作業で、たびたびケアレスミスが見られることだ。衝動性や不注意症状が強いカズキさんは、疲れてくると、数字を読み飛ばしてしまったり、固有名詞を書き間違ってしまうのだった。

 もう1つの問題は、1つの作業をやり終えたとき、次の作業を自分で見つけられないという点だ。その都度、周囲の同僚や上司が次の仕事をカズキさんに伝えないといけなくなり、周囲からは「もう少し臨機応変に自分で仕事をしてほしい」と求められてしまうのだった。

 臨機応変さや同時並行処理のスキルは、発達障がいの人が共通で抱える困難さの1つだ。カズキさんの場合、さらに手先の不器用さや不注意症状もあるため、事務仕事もまたかなりの配慮が必要だった。

 何カ所か一般事務関係で職場実習をおこなってみたが、毎回、同じような課題を指摘され、就労につながることはなかった。就労支援事業所のケース会議では、カズキさんの就労支援の方針を改めて検討することになった。その中で、ちょうど求人のあった障がい者福祉施設で働く可能性を探ることにした。
 その中で、ちょうど求人のあった障がい者福祉施設で働く可能性を探ることにした。

 カズキさんの強みは、何といっても人柄の良さだ。一人で仕事を任されるのは難しいが、周囲から「これをやってください」と言われるとすぐにそれを受け入れ、前向きに作業に取り組んでくれる。ミスを指摘されても不平を言うことなく、すぐに修正に応じることができる。そして、同僚と一緒に作業することも苦にならないし、短い時間であれば1つひとつの仕事をそつなくこなすことも得意だ。

 今回、福祉施設で求められている仕事内容を確認してみよう。この施設では慢性的な人手不足の中、現場スタッフや事務スタッフが担っているちょっとした業務を、その都度サポートしてくれる人材を求めていた。施設に入所している利用者の食事介助や居室の清掃、消耗品の補充、記録用紙のファイリングや現場スタッフのシフト表の作成補助、利用者の日中活動で取り組んでいる内職仕事の仕上げなどなど。一度にたくさんの仕事があるわけではないが、どれも人手のかかることばかりだった。

 カズキさんの就労支援担当者は、求人先の福祉施設の管理責任者と連絡をとり、職場実習を打診し、実習に向けた準備に入ることにした。カズキさんの得意・不得意と福祉施設が期待する業務を組み合わせるジョブマッチングを具体的に進める。カズキさんが職場でうまく働くための可能性を、職場実習を通して明らかにしていく。(つづく)
 中山清司(特定非営利活動法人 自閉症eサービス理事長)

(シルバー産業新聞2019年7月10日号)

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