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強度行動障害支援の現場(2)/中山清司(連載150)

強度行動障害支援の現場(2)/中山清司(連載150)

 国が、自閉症や知的障がいの人が時に示す激しい行動を「強度行動障害」と定義し、支援の在り方を本格的に模索し始めたのは、1988年、弘済学園(障害児入所施設)の当時の園長だった飯田雅子氏を中心とする研究班からだと言われている(行動障害児(者)研究会『強度行動障害児(者)の行動改善および処遇のあり方に関する研究』1989年)。

障害特性を理解し予防・軽減への対応を

 本研究において強度行動障害判定基準が作成され、具体的に、当事者が示す下記のような行動頻度を点数化(1点、3点、5点)し、合計得点が10点以上を強度行動障害とした。

 その行動とは、「ひどく自分の体を叩いたり傷つけたりする等の行為」「ひどく叩いたりけったりする等の行為」「激しいこだわり」「激しい器物破損」「睡眠障がい」「食べられないものを口に入れたり過食、反すう等の食事に関する行動」「排せつに関する強度の障がい」「著しい多動」「通常と違う声を上げたり大声を出す等の行動」「パニックへの対応が困難」「他人に恐怖感を与える態度の粗暴な行為があり、対応が困難」――の11項目。例えば、「ひどく自分の体を叩いたり傷つけたりする等の行為」の場合、例示として「肉が見えたり、頭部が変形に至るような叩きをしたり、つめをはぐなど」の行動が、「週に1回以上」あれば1点、「1日に1回以上」で3点、「1日中ある」ときは5点と評点される。

 この判定基準は、93年に始まった強度行動障害者特別処遇事業の対象者の判定に使われ、20点以上が当該事業の対象となった。本事業は、強度行動障害を呈する入所施設利用者への集中的な支援プログラムとそのための予算措置であったが、毎年、全国で十数カ所の施設でしか実施されず、5年間で事業は終了した。

 余談になるが、筆者が最初に入職した社会福祉法人の施設も本事業に取り組み、筆者は多くの強度行動障害のある方々の直接支援にかかわることになった。98年からは強度行動障害特別処遇加算費という一般施策に移行し、支援費制度導入後は、重度障害者支援加算(Ⅱ)などに引き継がれていくことになるが、上記の判定基準は引き続き使用されてきた。

 現在、障害者総合支援法の下、障害支援区分が整備され、行動障害に関連する項目も認定調査項目に組み込まれている。その中から12項目が抽出・点数化され、新たな強度行動障害判定基準表が作られた。この12項目とは、「コミュニケーション」「説明の理解」というコミュニケーション関連の項目と、「大声・奇声を出す」「異食行動」「多動・行動停止」「不安定な行動」「自らを傷つける行為」「他人を傷つける行為」「不適切な行為」「突発的な行動」「過食・はんすう等」、そして「てんかん発作の頻度(医師意見書による)」になる。

 新旧の判定基準を見ると、項目にいくつか異同はあるが、当事者の具体的な行動・行為の頻度と強度を確認しているところは共通している。しかしながら、新しい判定基準には、コミュニケーション関連やてんかん発作といった、より中核症状に着目している点が評価できる。なぜなら、当事者の自傷や異食といった表面上の行動・行為(認知症でいう周辺症状)を止めさせるといった対処療法的な視点だけでは、行動障害を予防・軽減することは難しいからだ。

 当事者のコミュニケーションの困難さや、てんかん発作などの医療的ケアを確認することで、支援者は、一人ひとりの行動障害の原因や要因を検討する視点を持つことができるだろう。もう少し踏み込んで言えば、自閉症や知的障がいの認知特性や脳機能の偏り、ひいては神経学的障がいを十分理解しないまま、表面上の行動・行為だけを止めさせようとしても、本質的な問題解決にはならない。

 昨今、施設や学校現場において、強度行動障害を呈する人への虐待・体罰の事件が少なからず報告されている。力ずくの対応をしてしまっている現場支援者・教師を見ると、障がい特性の理解が圧倒的に不足していると思わざるを得ないのである。
 中山清司(特定非営利活動法人 自閉症eサービス理事長)

(シルバー産業新聞2019年10月10日号)

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