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強度行動障害支援の現場(1)/中山清司(連載149)

強度行動障害支援の現場(1)/中山清司(連載149)

 認知症支援の現場では、当事者の幻覚・妄想・抑うつ・意欲低下などの精神症状と徘徊・興奮などの行動異常を「周辺症状」= BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)と呼び、そのような症状に対する周囲の理解と対応方法が模索されてきた。

「中核症状」 へのアプローチが不足

 同じように、我が国の自閉症・発達障がい支援の現場にあっては、頻繁な他害や破壊行動・不眠等の睡眠障がいなどの行動を「強度行動障害」と呼び、そのような行動を呈する人たちへの支援に取り組んできた歴史がある。

 認知症の「周辺症状」と自閉症・発達障がいの「強度行動障害」の概念は、対応の難しい当事者の行動や精神症状に焦点を当てているところに近似性がある。一方で、「強度行動障害」には、認知症でいうところの「中核症状」の定義が曖昧なまま、「強度行動障害」という行動とその対応にもっぱら支援者や研究者は関心を向けてきたように思われる。

 「強度行動障害」が明確に定義されたのは、1989年、行動障がい児(者)研究会による『強度行動障害児(者)の行動改善および処遇のあり方に関する研究』報告書による。当時示された「強度行動障害」の定義は以下のように記述され、現在もこれが引き継がれている。

 精神科的な診断として定義される群とは異なり、直接的他害(噛みつき、頭突き等)や、間接的他害(睡眠の乱れ、同一性の保持等)、自傷行為等通常考えられない頻度と形式で出現し、その養育環境では著しく処遇の困難なものであり、行動的に定義される群。家庭にあって通常の育て方をし、かなりの養育努力があっても著しい処遇困難が持続している状態。

 最初の定義に内包されているように、「強度行動障害」には「精神科的な診断」を含めていない。認知症でいう「中核症状」の部分を取り上げないことで、支援現場における自閉症や知的障がい・てんかん・ダウン症・トゥレット症候群などの診断上の議論を避けたともいえる。しかしながら、その結果、支援現場では、個々人の「中核症状」が十分考慮されず、その場その場の行動面への対処療法に向かう傾向は否定できないところだろう。

 またこの定義では、「強度行動障害」の形式を、直接的他害・間接的他害・自傷行為等に分類するが、特に睡眠の乱れや同一性保持を「間接的他害」と捉えることに筆者は注目する。夜中までずっと起きているとか、こだわりの行動があって同じ行為を繰り返したり次の行動にスムースに移行できなかったりする状態を、「間接的他害」と捉える。ここには、周囲の家族や支援者に対する迷惑行為=間接的他害という構図が見て取れる。

 「強度行動障害」は歴史的に見て、「中核症状」の検討には触れず、周囲の困り感や処遇困難感を動機に概念や制度が組み立てられてきた。その影響は現在へと続いている。(つづく
 中山清司(特定非営利活動法人 自閉症eサービス理事長)

(シルバー産業新聞2019年9月10日号)

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