現場最前線の今

強度行動障害支援の現場(3)/中山清司(連載151)

強度行動障害支援の現場(3)/中山清司(連載151)

 前回まで、自閉症や知的障がいを伴う強度行動障害への対応をめぐる、この四半世紀の歴史的経過とそれが内包する問題点を指摘した。

対症療法的な対応でなく、障がい特性の理解を

 すなわち、1980年代、当時、全員就学が始まったばかりの養護学校(1979年、養護学校義務化)や全国各地で開所し始めた自閉症専門施設には、激しい行動障がいの状態にある自閉症・知的障がいの方々が多数存在しており、その行動・行為をどう抑えるか、どう予防できるかが現場の喫緊の課題になっていた。まさに「強度行動障害児(者)の行動改善および処遇のあり方」の研究・検討が出発点となり、その基本姿勢は現在へと受け継がれている。

 今もなお、施設や学校現場では、もっぱら当事者が示す自傷や他害・破壊といった行動・行為に注目しがちで、彼らの中核症状である障がい特性の確認や行動障がいにいたる原因の究明が十分なされぬまま対症療法的な対応に終始する傾向にある。その結果として、施設スタッフや教師は、日常的にあるいは仕方なく、当事者の身体を力ずくで押さえつけたり、部屋にカギをかけて出られないようにしたりして、それが施設や学校における虐待・体罰の温床になっているのではないかと筆者は考えている。

 強度障害行動が注目されてきた1980年代後半から90年代にかけて、筆者もまた成人施設の現場スタッフとして、日々、自傷や他害・破壊などの激しい行動を示す自閉症・知的障がいのある施設利用者と対峙してきた。

 当時を振り返ると、行動障害への対応も含め、数々の「○○療法」が現場周辺に飛び交っていたことを思い出す。ある療法によれば(それを信奉する専門家・実践家の言い分だが)、当事者の逸脱した行動はいっさいさせてはならない、繰り返しドアの開け閉めにこだわる自閉症の人がいたとしたら、その行動は絶対に止めさせなければならないと言う。指導者が号令すれば、本人は即座にその場で正座あるいは寝ないといけない。そして本人は身体を硬直させ、スタッフの指示があるまで指一つ動かしてはならない、と強く指導すべきだとのことだった。

 別の「○○療法」によれば、その子が泣き叫んでいたら、親やスタッフはその子をずっと強く抱きしめてあげなさいと言う。また別の「○○療法」によれば、とにかく悪い行いをしたら罰を与え(例えば遊んでいるオモチャを取り上げるなど)、良い行いをしたら「よく頑張ったね」と過剰にほめて好きなお菓子を与えなさいとのこと。

 それ以外にも、表情や筋肉が固いからまずは身体をほぐすことから始めなさいとか、本人が砂遊びしたいというならスタッフはひたすらそれに付き合って一緒に砂遊びしてあげなさいとか、野菜は健康にいいので本人が嫌がっても何とか食べさせなければならない、漢方薬も使いなさいなどなど。

 Aの療法とBの療法には、よって立つ考え方も方法論も違う。そこにどんな関連があるのかもよくわからないまま、それぞれの現場において、Aの療法がいいはずだ、いやBの療法でやるべきだという感じでスタッフも右往左往するような状況だった。

 強度行動障害を呈する個々人の生育歴をたどると、例えば、3歳になっても発語のない子どもが自閉症と診断され、不安がいっぱいの親御さんに対し、当時の保健婦からは「たくさん話しかけてあげてください。絵本の読み聞かせがいいですよ」などと指導・助言されていたりする。

 その子が小学校に入ると「普通クラスでみんなと一緒に過ごすことが大事です」という学校側の方針もあり、普通クラスの中で学校生活を送るようになった。しかし、授業の意味がよくわからない自閉症の子どもが癇癪や教室から飛び出すことが続くと、今度は特殊学級や養護学校を勧められたりする。そして、10代後半になっても暴れたり大声をあげたりが頻発しても効果的な対応は見当たらずに学校を卒業し、施設利用へと至る。

 そういう経過の中、当事者の行動障がいはますます強くなり、固着化していく。そんな事例が非常に多いのだった。

 中山清司(特定非営利活動法人 自閉症eサービス理事長)

(シルバー産業新聞2019年11月10日号)

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