ワールドレポート
台湾の「通いの場」 地域の健康増進拠点を拡大

台湾で「介護サービスの前に予防を」をめざしてきた長庚科技大学の張淑紅看護学部長。大学で公衆衛生を学んだ看護師の張氏は、多くの患者が病気を進行させてから入院する現状を変えようと、地域での予防活動を実践してきた。健康増進の場づくりに加え、医療面・栄養面のサポートでも成果を上げてきた。福祉用具の活用や人材育成にも取り組んでいる。
長庚科技大学看護学部長の張氏は、大学がある桃園市亀山地域で10年以上にわたり、地域住民が集まる拠点に出向き健康増進に取り組んでいる。バランスバーを使った運動、カラオケ、軽い筋トレなどを組み合わせた健康体操を実施。高齢者の身長・体重・腹囲・血糖・血圧などを毎月測定し、メタボリックシンドロームの早期発見に努めた。合わせて栄養士と連携し、台湾の食事ガイドラインに基づいた食育指導も行った。
台湾では、高齢者が「人に頼って生きる」傾向が強く、介護施設では自分で入浴できる人も、時間がかかるからと職員が介助する実態がある。「そのような環境では高齢者の自立機能が失われる」と張氏は危惧。その対応策の一つとして始めたのが、大学から徒歩10分圏内に整備した健康拠点だった。台湾における「通いの場」である(写真1)。
台湾では、高齢者が「人に頼って生きる」傾向が強く、介護施設では自分で入浴できる人も、時間がかかるからと職員が介助する実態がある。「そのような環境では高齢者の自立機能が失われる」と張氏は危惧。その対応策の一つとして始めたのが、大学から徒歩10分圏内に整備した健康拠点だった。台湾における「通いの場」である(写真1)。
成果を他地域へ共有
活動1年目終了後、各地域の里長たちと成功事例を共有。好感触を得た。2年目には「私もやってみたい」と新たに名乗り出る里長が増えたという。
「通いの場」の強みは、医療機関との連携。「長庚病院と協働して各地域に健康リーダーを配置した。三高(高血圧・高血糖・高コレステロール)への対応、栄養指導にも力を入れた。台湾の栄養指針に基づく食事内容の提案、栄養士と一緒に安全・健康的な在宅生活のあり方を考えた」と振り返る。
参加者には血液検査などを行い、変化を追跡。結果、多くの高齢者は腹囲が縮小し、栄養摂取の状況も改善した。活動回数は年4回、8回、12回と増え、現在では年32回実施。開始から6〜8年で急成長を遂げた。
「プレフレイル状態の高齢者への対応も重要」と張氏。独居高齢者のケースでは、夫を亡くした直後で心に大きな空白を抱えていたが、地域活動を通じてうつ状態から回復した人も。手工芸の先生としての役割を再び担い、地域に貢献しているという。
「通いの場」の強みは、医療機関との連携。「長庚病院と協働して各地域に健康リーダーを配置した。三高(高血圧・高血糖・高コレステロール)への対応、栄養指導にも力を入れた。台湾の栄養指針に基づく食事内容の提案、栄養士と一緒に安全・健康的な在宅生活のあり方を考えた」と振り返る。
参加者には血液検査などを行い、変化を追跡。結果、多くの高齢者は腹囲が縮小し、栄養摂取の状況も改善した。活動回数は年4回、8回、12回と増え、現在では年32回実施。開始から6〜8年で急成長を遂げた。
「プレフレイル状態の高齢者への対応も重要」と張氏。独居高齢者のケースでは、夫を亡くした直後で心に大きな空白を抱えていたが、地域活動を通じてうつ状態から回復した人も。手工芸の先生としての役割を再び担い、地域に貢献しているという。

「健康に生き地域に根ざして生活することが、私たちのゴール」と長庚科技大学の張淑紅看護学部長
福祉用具で生活再建を
今後の課題は福祉用具の活用。「介護人材の不足が進行する中、センサー付きベッドやバイタルモニタリングシステムなどで人的負担を軽減したい」と張氏は語る。
一方、福祉用具の選定や活用に関しては、販売員の知識不足や説明不足が否めないという。台湾では「歩けなくなったらベッドに寝るだけ」との認識がまだまだ根強く、福祉用具が生活再建に役立つという意識が広がっていないのが現状だ。
「福祉用具は高齢者がより安心して地域で暮らすためのツール。スマート機器やテクノロジーも積極的に活用していく必要がある」と強調する。
昨年10月には、約30カ国の代表が現地を訪れ、地域の健康増進活動を体験。「大健走」ウォーキング大会は定員5000人が早々に埋まり、健康意識の高まりが実感されたという(写真2)。
台湾も日本と同様、介護人材の絶対的不足が高齢化の大きな課題。とりわけ山間部や先住民族の多い地域では、サービス提供の格差も深刻だ。張氏は「日本の経験から学べる点は多い」と語る。
「最終的に、人が健康に生き、地域に根ざして生活すること。それこそが私たちのゴールです。私は生まれてからずっとこの地域で暮らし、地域を良くすることを使命として活動してきました。これからも『介護サービスの前に予防を』というメッセージを繰り返し伝えていきたい」と語った。
一方、福祉用具の選定や活用に関しては、販売員の知識不足や説明不足が否めないという。台湾では「歩けなくなったらベッドに寝るだけ」との認識がまだまだ根強く、福祉用具が生活再建に役立つという意識が広がっていないのが現状だ。
「福祉用具は高齢者がより安心して地域で暮らすためのツール。スマート機器やテクノロジーも積極的に活用していく必要がある」と強調する。
昨年10月には、約30カ国の代表が現地を訪れ、地域の健康増進活動を体験。「大健走」ウォーキング大会は定員5000人が早々に埋まり、健康意識の高まりが実感されたという(写真2)。
台湾も日本と同様、介護人材の絶対的不足が高齢化の大きな課題。とりわけ山間部や先住民族の多い地域では、サービス提供の格差も深刻だ。張氏は「日本の経験から学べる点は多い」と語る。
「最終的に、人が健康に生き、地域に根ざして生活すること。それこそが私たちのゴールです。私は生まれてからずっとこの地域で暮らし、地域を良くすることを使命として活動してきました。これからも『介護サービスの前に予防を』というメッセージを繰り返し伝えていきたい」と語った。

実体験から支援を学ぶ
学生への指導も、現場での実習を重視。「実体験を通じ『支援とは何か』を学んでもらう。教室の設備もスマート化が進み、学生たちが福祉用具やテクノロジー機器を使いこなせるようにしている。日本から講師や専門家を招いて実践的知見を取り入れるなど、学術連携も強化している。これまで日本へ研修に行った学生たちは、帰国後も地域でリーダーシップを発揮している」(張氏)
(シルバー産業新聞2025年5月10日号)