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ワールドレポート 台湾 来年7月、スマート福祉用具の給付制度を新設

ワールドレポート 台湾 来年7月、スマート福祉用具の給付制度を新設

 台湾の介護制度「長照」で、来年7月から「スマートテクノロジー(智慧科技)福祉用具」のレンタルに特化した新たな給付制度が始まる。従来の福祉用具の給付制度とは別に、3年間で6万台湾元(約27万円)を上限とする介護テクノロジー専用の給付枠を設け、利用者はどちらか一方を選択する。日本の介護保険制度を参考に、レンタルを原則とし、利用者の状態変化に合わせた適切な機器の利用促進と、福祉用具市場の発展を目指す。台湾の福祉用具制度に詳しい国立陽明交通大学ICF&支援技術研究センターの李淑貞センター長に概要や展望を聞いた。

新給付枠、上限は3年27万円

 ――台湾の福祉用具の給付の仕組みについて。

 台湾の福祉用具給付サービスは、障がい者向けの制度を母体に発展してきました。2001年に、当時の国立陽明大学が政府の委託を受けて設立した「福祉用具センター(輔具中心)」が大きな節目となりました。この経緯は、義肢などの「補装具」の支給から始まり、専門機関の設立を経て、制度を発展させてきた日本の歴史と重なります。

 福祉用具センターは、専門的なサービスを担う人材を育成し、その人材が台湾全土で質の高いサービスを提供するための重要な拠点となっています。現在、台湾全土に40カ所のセンターが設置され、各自治体に少なくとも1カ所配置される体制が整っています。

 そこでアセスメントを担うのが「福祉用具評価員(輔具評估人員)」です。特に「甲類」と呼ばれる評価員は、84時間の講習を受けたPTやOTが質の高いアセスメントを提供しています。

 現行の介護制度「長照2・0」では、福祉用具47品目、住宅改修21品目の計68品目について、3年間で4万台湾元(約18万円)の給付枠が設けられています。しかし、多くは購入が中心で、レンタルが可能な品目はごく一部に限られています。

 来年7月からは、新たにスマートテクノロジー福祉用具のレンタル制度が導入されます。従来の福祉用具給付制度(グループ1)とは別に、「スマートテクノロジー福祉用具」に特化した新しい給付枠(グループ2)が創設されます。

 給付上限額は3年間で6万台湾元(約27万円)。給付方式は原則としてレンタルに限定されます。対象品目は、移乗支援、移動支援、入浴・排泄支援、ベッド周辺機器、安全監視・見守りの5つのカテゴリーに分類されます。

状態に合わせて最適な機器を提供

 ――なぜ「スマートテクノロジー」に特化し、レンタル原則なのか。

 背景には、テクノロジーの活用によって介護の質を向上させ、介護者の負担を軽減するという明確な狙いがあります。特に、重度の要介護者が増える中で、センサーによる見守りやデータ連携が可能な機器の重要性が高まっています。

 レンタルに限定したのは利用者の身体状況の変化に柔軟に対応するためです。高価なスマート機器を購入しても、状態が変われば使えなくなってしまう可能性があります。レンタルであれば、その時々のニーズに合った最適な機器を利用し続けることができます。この点は、日本の介護保険のレンタル原則の仕組みを大いに参考にしています。

 利用者は、従来の「グループ1」か、新たな「グループ2」のどちらかを選択します。ただし、一度選択すると、原則として3年間は変更できません。すでにグループ1の給付を受けている利用者が2へ移行する場合、1の給付が承認された日から満3年が経過している必要があります。

 「スマートテクノロジー福祉用具」は、単なる機器ではなく、IoT技術などを活用して利用者のデータを「感知、記録、伝送、分析し、フィードバックする」機能を持つものと定義されています。これにより、介護の安全性を高め、介護者の負担を軽減し、必要な時に適切な介入を行うことを目指します。

「自由価格制」で市場競争を促進

 新制度ではまず、利用者は各県市に設置されている福祉用具センターなどの甲類評価員によるアセスメントを受ける必要があります。利用者の心身状態や生活環境を評価し、最適な機器を選定するための評価報告書を作成します。

 もう一つの大きな特徴は、レンタル価格の決定方法です。これまでは上限価格が定められていましたが、新制度では日本の制度を参考に、事業者が自由に価格を設定できる「自由価格制」が導入されます。事業者は設定した価格を管轄の県や市に届け出る必要があります。市場原理に基づいた柔軟な価格設定が可能となりサービスの質を軸とした競争が促されます。

 さらに、品質と安全性の確保も重視されています。給付対象となる製品は、医療機器としての登録や台湾のCNS(日本のJISに相当)、またはそれに準ずる国際基準を満たす必要があります。

 また、スマートフォンのアプリなどを利用する機器は、第三者機関による情報セキュリティ検査に合格することが義務付けられ、利用者の個人情報保護にも配慮されています。

 台湾政府は、新制度を通じて、従来の購入中心からレンタルへと移行を促し、福祉用具の循環利用と市場の活性化を図る狙いです。

市場の展望と日本企業への期待

 ――新制度の導入は、市場にどのような影響を与えると予測されるか。

 特に重要なのは、レンタル価格が事業者の自由設定になる点です。これまでの制度では、政府が定めた上限価格が足かせとなり、高品質な製品や新しい技術が市場に参入しにくいという課題がありました。しかし、新制度では事業者が価格を決め、政府に届け出る形になるため、製品の性能や付加価値が正当に評価される市場環境が整います。

 これは、日本のメーカーにとっても大きな好機となるでしょう。日本の福祉用具は高品質で、特にデザインや安全性への配慮は台湾でも高く評価されています。価格が高いためにこれまで市場参入が難しかった製品も、レンタルという形で月々の利用料になれば、利用しやすくなります。

 ただし、台湾の医療機器に関する法規制は欧米の基準に準拠している部分があり、日本の制度とは異なる点に注意が必要です。また、単に製品を販売するだけでなく、台湾の介護現場のニーズを把握し、福祉用具センターの専門職と連携できるようなサービス体制を構築することが成功の鍵となります。私たちも福祉機器展「ATLife台湾」などを通じて、日本と台湾の企業が交流し、連携できるようなプラットフォームを今後も提供していきたいと考えています。

 台湾は中華圏市場のテストマーケティングの場としても非常に重要です。この変革の時期に、ぜひ日本の優れた技術やサービスの積極的な参画を期待します。

(シルバー産業新聞2025年10月10日号)

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