インタビュー・座談会
【座談会】福祉用具のパイオニア 「暮らしを変えたアイデアの原点」
【出席者】(※肩書は収録当時)
桜井 学氏(京都学福祉用具開発研究所所長、元アロン化成ライフサポート事業部長)
十河 孝男氏(徳武産業会長)
清水 正憲氏(ウェルファン顧問)
Pトイレ・あゆみシューズ・ウェルファン物流、3人の挑戦
司会(編集部)
本日は、福祉用具のパイオニアであるお三方にお集まりいただきました。アロン化成でポータブルトイレ(以下、Pトイレ)などを手掛けてこられた京都学福祉用具開発研究所の桜井学さん、転倒しにくい「あゆみシューズ」を開発された徳武産業会長の十河孝男さん、そして介護用品卸ウェルファンを率い多様な介護衣類やカタログ流通を築かれた同社顧問の清水正憲さんです。70年大阪万博を契機に始まったトイレの水洗化から、現在の在宅介護を支える物流・教育体制まで、時代を追いながらお話を伺います。
本日は、福祉用具のパイオニアであるお三方にお集まりいただきました。アロン化成でポータブルトイレ(以下、Pトイレ)などを手掛けてこられた京都学福祉用具開発研究所の桜井学さん、転倒しにくい「あゆみシューズ」を開発された徳武産業会長の十河孝男さん、そして介護用品卸ウェルファンを率い多様な介護衣類やカタログ流通を築かれた同社顧問の清水正憲さんです。70年大阪万博を契機に始まったトイレの水洗化から、現在の在宅介護を支える物流・教育体制まで、時代を追いながらお話を伺います。
桜井 学氏
水洗化が切り開いたプラスチックトイレ用品の時代
桜井
アロン化成(当時・寺岡製作所)がPトイレ「N型」を発売したのは1972年8月です。海外のキャンプ用トイレを参考に、バケツにためた汚物を水洗トイレに流せる機構を備え、室内のどこへでも持ち運べるのが特長でした。70年大阪万博で大阪市の下水道が整備され、水洗トイレが普及し始めたことで、水洗トイレに対応した日用品を作ろうとの発想から、プラスチック製のPトイレやトイレコーナー、ケース入りのしゃれたトイレブラシなどを次々に開発しました。家庭生活の洋風化にマッチし大ヒットしました。
司会
水洗化がプラ製トイレ用品を可能にし、Pトイレはかがまなくとも、いすのように腰掛けて居宅でも排泄できるという新しい生活スタイルを生み出したわけですね。
桜井
ええ。和式便器を工事不要で洋式化する「サニタリーエース」や、寝たまま使う差し込み便器の代わりに、ベッド下に収められる高さ(32㎝)のPトイレを開発しました。アロン化成には管材部門と生活用品部門があり、介護用品は後者の役割でした。当時はまだ高齢者介護の概念も希薄でしたね。
アロン化成(当時・寺岡製作所)がPトイレ「N型」を発売したのは1972年8月です。海外のキャンプ用トイレを参考に、バケツにためた汚物を水洗トイレに流せる機構を備え、室内のどこへでも持ち運べるのが特長でした。70年大阪万博で大阪市の下水道が整備され、水洗トイレが普及し始めたことで、水洗トイレに対応した日用品を作ろうとの発想から、プラスチック製のPトイレやトイレコーナー、ケース入りのしゃれたトイレブラシなどを次々に開発しました。家庭生活の洋風化にマッチし大ヒットしました。
司会
水洗化がプラ製トイレ用品を可能にし、Pトイレはかがまなくとも、いすのように腰掛けて居宅でも排泄できるという新しい生活スタイルを生み出したわけですね。
桜井
ええ。和式便器を工事不要で洋式化する「サニタリーエース」や、寝たまま使う差し込み便器の代わりに、ベッド下に収められる高さ(32㎝)のPトイレを開発しました。アロン化成には管材部門と生活用品部門があり、介護用品は後者の役割でした。当時はまだ高齢者介護の概念も希薄でしたね。
十河 孝男氏
転倒しにくい靴への挑戦
十河
私は徳武産業で「あゆみシューズ」を手掛けています。先代が手袋製造で創業し、家庭用スリッパ、さらにアキレス社の学童靴アッパー(シューズの上部)の縫製を約20年請け負いました。品質・コスト・納期を叩き込まれた下請け時代の経験が会社の基礎体力です。
1988年、取引先から海外生産移行を告げられたことが転機でした。1995年の阪神・淡路大震災の直後、高齢者施設を経営する友人から「転倒しにくい靴を作ってほしい」と依頼を受け、日本にも世界にもお手本のない分野に挑むことになりました。
私は徳武産業で「あゆみシューズ」を手掛けています。先代が手袋製造で創業し、家庭用スリッパ、さらにアキレス社の学童靴アッパー(シューズの上部)の縫製を約20年請け負いました。品質・コスト・納期を叩き込まれた下請け時代の経験が会社の基礎体力です。
1988年、取引先から海外生産移行を告げられたことが転機でした。1995年の阪神・淡路大震災の直後、高齢者施設を経営する友人から「転倒しにくい靴を作ってほしい」と依頼を受け、日本にも世界にもお手本のない分野に挑むことになりました。
「あゆみシューズ」
着せやすい肌着と卸業の確立
清水
ウェルファンの清水です。今年2月に会長を退任し後進にバトンを引き継ぎました。1982年に親交のあった特養から「高齢者に着せやすい・着やすい肌着はないか」と相談を受け、父が営んでいた子ども肌着メーカー「アニマル」の技術で試作を重ねました。父は、何もかも理にかなったものを作るのが信念で、試作品を作っては施設に持参して着てもらい改善を繰り返しました。失禁パンツやおむつ用ズボンへと広げましたが、当初はなかなか売れませんでした。
協力していただいた高齢者施設は、女性は50人中40人で、身長が150㎝を超える人はいませんでした。年老いていくと身長が縮むことも知りました。
高齢化の進展とともに、薬局に加えて介護ショップなど販売の場が整ってきました。私はゆうパック通販で温かい肩当てを開発し、双子の100歳姉妹の人気にあやかり、「きんさんには金色、ぎんさんには銀色」のコピーでヒットさせました。軽くて温かいアクリル繊維の裏起毛素材を使ったことで、羽毛製品に比べて安くできたのです。
ウェルファンの清水です。今年2月に会長を退任し後進にバトンを引き継ぎました。1982年に親交のあった特養から「高齢者に着せやすい・着やすい肌着はないか」と相談を受け、父が営んでいた子ども肌着メーカー「アニマル」の技術で試作を重ねました。父は、何もかも理にかなったものを作るのが信念で、試作品を作っては施設に持参して着てもらい改善を繰り返しました。失禁パンツやおむつ用ズボンへと広げましたが、当初はなかなか売れませんでした。
協力していただいた高齢者施設は、女性は50人中40人で、身長が150㎝を超える人はいませんでした。年老いていくと身長が縮むことも知りました。
高齢化の進展とともに、薬局に加えて介護ショップなど販売の場が整ってきました。私はゆうパック通販で温かい肩当てを開発し、双子の100歳姉妹の人気にあやかり、「きんさんには金色、ぎんさんには銀色」のコピーでヒットさせました。軽くて温かいアクリル繊維の裏起毛素材を使ったことで、羽毛製品に比べて安くできたのです。
清水 正憲氏
カタログが結ぶ3社の協業
司会
ウェルファンは、カタログづくりでアロン化成と、靴の対応であゆみシューズの徳武産業と関わりが深まるのですね。
清水
2001年、私はカタログ制作に約1カ月間、朝早くから晩遅くまで没頭しました。当時のカタログは48頁か64頁の仕立てで自社製品中心から仕入れ商品中心へ比重が変わるタイミングでした。掲載メーカーから掲載料をもらい、カタログを福祉用具事業者に販売するという先駆的な事業展開です。メーカーが1件1件ユーザーを回って売り歩くのを、カタログが代行するわけです。その際、ヒューマン・ケア・ネットワークの会合で十河さんと出会いました。
ウェルファンは、カタログづくりでアロン化成と、靴の対応であゆみシューズの徳武産業と関わりが深まるのですね。
清水
2001年、私はカタログ制作に約1カ月間、朝早くから晩遅くまで没頭しました。当時のカタログは48頁か64頁の仕立てで自社製品中心から仕入れ商品中心へ比重が変わるタイミングでした。掲載メーカーから掲載料をもらい、カタログを福祉用具事業者に販売するという先駆的な事業展開です。メーカーが1件1件ユーザーを回って売り歩くのを、カタログが代行するわけです。その際、ヒューマン・ケア・ネットワークの会合で十河さんと出会いました。
「夢ライフ 福祉用具便利帖」
桜井
98年発売のPトイレ「FX‐1」は便座高を調節でき、後継の「FX‐CP(ちびくまくん)」へと発展しました。2001年には「折りたたみシャワーベンチ」を発売。ウェルファンのカタログは当社製品を魅力的に見せてくれ、私もカタログ作りの重要性を再認識しました。
98年発売のPトイレ「FX‐1」は便座高を調節でき、後継の「FX‐CP(ちびくまくん)」へと発展しました。2001年には「折りたたみシャワーベンチ」を発売。ウェルファンのカタログは当社製品を魅力的に見せてくれ、私もカタログ作りの重要性を再認識しました。
「FX-CP ちびくまくん」
介護保険制度前夜の学び
司会
2000年に介護保険という高齢社会を支える仕組みができ、在宅で福祉用具が活用される大きな力になっていきました。
桜井
95年、ライバルメーカーの新製品の登場でPトイレの売上げが半減しました。そこでPトイレ本体の底に受け皿を付けた二重構造のタイプを開発し、全国キャンペーンを展開して挽回しました。「しっかりしたニーズ対応の製品づくりと情報発信で新しいユーザーを開発できる」と痛感したことが、介護保険開始前の貴重な学びとなりました。
十河
靴も大きな転機がありました。靴開発の2年間に分かったことは、高齢者の足は左右で形が違うことでした。左右サイズ違い販売を実施し、一足の通常価格で提供しました。こうして片方のみを1足の半額で販売したことで歩行の癖などにより、すり減った片方だけ買い替えられるようにもなりました。当時1万2000社あった日本の靴メーカーでも例がなく、高齢者に喜ばれています。
2000年に介護保険という高齢社会を支える仕組みができ、在宅で福祉用具が活用される大きな力になっていきました。
桜井
95年、ライバルメーカーの新製品の登場でPトイレの売上げが半減しました。そこでPトイレ本体の底に受け皿を付けた二重構造のタイプを開発し、全国キャンペーンを展開して挽回しました。「しっかりしたニーズ対応の製品づくりと情報発信で新しいユーザーを開発できる」と痛感したことが、介護保険開始前の貴重な学びとなりました。
十河
靴も大きな転機がありました。靴開発の2年間に分かったことは、高齢者の足は左右で形が違うことでした。左右サイズ違い販売を実施し、一足の通常価格で提供しました。こうして片方のみを1足の半額で販売したことで歩行の癖などにより、すり減った片方だけ買い替えられるようにもなりました。当時1万2000社あった日本の靴メーカーでも例がなく、高齢者に喜ばれています。
ICTと物流〜安心を届ける仕組み
清水
ウェルファンでは片方ごとの商品コードを1000超登録し、返品にも対応しています。北海道・栃木・大阪・大分の4物流拠点をICTで一元管理し、在庫の98%を棚番と数量で把握しています。十河左右サイズ違いや片方のみの販売のケアシューズは全体の約1割強あります。卸が柔軟に対応してくれるおかげで全国配送が可能です。
十河
左右サイズ違いや片方のみの販売のケアシューズは全体の約1割強あります。卸が柔軟に対応してくれるおかげで全国配送が可能です。
桜井
メーカーとしても卸の物流力に学んでいます。滋賀工場から全国発送するより、卸に在庫してもらう方がユーザーに速く届きます。今や物流問題への対応が最重要課題です。
ウェルファンでは片方ごとの商品コードを1000超登録し、返品にも対応しています。北海道・栃木・大阪・大分の4物流拠点をICTで一元管理し、在庫の98%を棚番と数量で把握しています。十河左右サイズ違いや片方のみの販売のケアシューズは全体の約1割強あります。卸が柔軟に対応してくれるおかげで全国配送が可能です。
十河
左右サイズ違いや片方のみの販売のケアシューズは全体の約1割強あります。卸が柔軟に対応してくれるおかげで全国配送が可能です。
桜井
メーカーとしても卸の物流力に学んでいます。滋賀工場から全国発送するより、卸に在庫してもらう方がユーザーに速く届きます。今や物流問題への対応が最重要課題です。
在宅営業と人材育成
桜井
ところで、ウェルファンの「在宅営業社員制度」について教えてください。
清水
全国にいる当社の営業マンは自宅から直行直帰し、日報提出と月1回の会議で自己統制します。加えて、幹部が同行訪問してフォローする体制を30年続けています。
桜井
社員教育も充実していますね。メーカーを招いて商品研修を行い、体験型で知識を身につける。組立済みの木製家具調トイレを段ボールケースから取り出すのはショップの女性社員には重すぎる。そこでケースの下部にミシン目を入れてここで切り離すと、すっぽり上部が空いて本体が現れる。研修でこれを実際に行っているのを見ました
清水
2000年からは福祉用具事業所向け研修会を全国24カ所で開催し、延べ5000人が参加しています(福祉用具専門相談員の5人に1人にあたる)。
ところで、ウェルファンの「在宅営業社員制度」について教えてください。
清水
全国にいる当社の営業マンは自宅から直行直帰し、日報提出と月1回の会議で自己統制します。加えて、幹部が同行訪問してフォローする体制を30年続けています。
桜井
社員教育も充実していますね。メーカーを招いて商品研修を行い、体験型で知識を身につける。組立済みの木製家具調トイレを段ボールケースから取り出すのはショップの女性社員には重すぎる。そこでケースの下部にミシン目を入れてここで切り離すと、すっぽり上部が空いて本体が現れる。研修でこれを実際に行っているのを見ました
清水
2000年からは福祉用具事業所向け研修会を全国24カ所で開催し、延べ5000人が参加しています(福祉用具専門相談員の5人に1人にあたる)。
現場と開発をつなぐ組織づくり
桜井
開発には現場の声が欠かせませんが、利用者やケアマネジャーに直接会う機会は限られます。そこで02年、「安寿会」を立ち上げ、利用者やケアマネジャーに日々向かい合う全国700社の販売店と情報交換しています。
十河
施設を回る中で、高齢者が感じる「心の寂しさ」を知りました。当社と対話いただくため社員手書きの「まごころはがき」を全商品に封入しています。年間約3万枚返却いただくアンケートはがきは、利用者のニーズを探る宝物です。返却のお礼にお客様の誕生日にプレゼントをお送りしています。当社のシェア55%の背景にはこうした信頼関係があると思います。発売30周年となり累積で2500万足を達成しようとしています。
開発には現場の声が欠かせませんが、利用者やケアマネジャーに直接会う機会は限られます。そこで02年、「安寿会」を立ち上げ、利用者やケアマネジャーに日々向かい合う全国700社の販売店と情報交換しています。
十河
施設を回る中で、高齢者が感じる「心の寂しさ」を知りました。当社と対話いただくため社員手書きの「まごころはがき」を全商品に封入しています。年間約3万枚返却いただくアンケートはがきは、利用者のニーズを探る宝物です。返却のお礼にお客様の誕生日にプレゼントをお送りしています。当社のシェア55%の背景にはこうした信頼関係があると思います。発売30周年となり累積で2500万足を達成しようとしています。
若い世代へのメッセージ
清水
若い世代には、利用者と対話し、生活を共にする中で本当に必要なサービスを開発してほしいと伝えたいです。
司会
皆さま、貴重なお話をありがとうございました。水洗化から始まった入浴・排泄製品、転倒しにくい靴、そして卸とICTが支える流通──三者三様の挑戦が、現在の在宅介護を支える基盤になっていることがよく分かりました。(了)
(シルバー産業新聞 2025年8月10日号)
若い世代には、利用者と対話し、生活を共にする中で本当に必要なサービスを開発してほしいと伝えたいです。
司会
皆さま、貴重なお話をありがとうございました。水洗化から始まった入浴・排泄製品、転倒しにくい靴、そして卸とICTが支える流通──三者三様の挑戦が、現在の在宅介護を支える基盤になっていることがよく分かりました。(了)
(シルバー産業新聞 2025年8月10日号)


