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福祉用具・生活援助 自己負担化見送り 改正素案

福祉用具・生活援助 自己負担化見送り 改正素案

 厚生労働省は11月25日、社会保障審議会介護保険部会(部会長=遠藤久夫・学習院大学教授)を開催し、次期介護保険制度見直しに関する意見書の素案を提示した。政府・財務省から検討を求められていた、軽度者への福祉用具・住宅改修、生活援助サービスの自己負担化については具体策を盛り込まず、見送りを決めた一方で、福祉用具の価格については、上限を設ける考えを新たに明記した。地域包括ケアシステムを推進していく観点では、障害福祉サービス事業所が介護保険事業所の指定を受けやすくするための見直しや、地域密着型通所介護の指定拒否の仕組みなどが盛り込まれている。

福祉用具レンタル価格に上限設定

 素案はこれまでの審議を事務局が整理したもの。大きく①介護保険制度の持続可能性の確保②地域包括ケアシステムの深化・推進――の2つの観点から取りまとめられている。

 「①介護保険制度の持続可能性の確保」では、政府や財務省から検討を求められていた▽軽度者への支援のあり方▽福祉用具・住宅改修▽利用者負担のあり方▽総報酬割――などのテーマについて見直し方針を明記。

 軽度者のサービスを全て地域支援事業に移行させる案については、「まずは介護予防訪問介護と介護予防通所介護の総合事業への移行の状況を踏まえて検討を行うことが適当」と次期制度改正での移行については、見送る方針を明記した。同じく、軽度者の生活援助を原則自己負担にする案についても具体的な方針は明記せず、見送りを決めた。

 人材の有効活用の観点から、生活援助を中心にサービス提供を行う場合の緩和された人員基準の設定については、賛成・反対の両論を併記し、介護報酬改定の際に改めて検討を行う方針を示した。

 このほか、自立支援につながるサービス提供が行われるよう、ケアマネジャー、医師、看護師、セラピストらの多職種が集まり、地域ケア会議の場でケアマネジメント支援をしていく取り組みを推進していく考えなどが盛り込まれている。

福祉用具貸与計画ケアマネに交付義務

 福祉用具については、「利用者が可能な限り居宅において自立した日常生活を営むことができるよう、生活機能の維持・改善を図り、状態の悪化防止に資するとともに、介護者の負担の軽減を図る役割を担っている」と、改めて福祉用具が果たしている役割を明記。

 財務省が求めていた、軽度者の福祉用具の原則自己負担(一部補助)については、具体的な方針を明記することなく、次期改正法案に盛り込まない方針を示した。

 一方で、福祉用具の価格については、同一製品であっても平均的な価格と比べて非常に高価な価格請求が行われているケースが存在するなどの問題点を明記。

 高価な価格請求である「外れ値」への対応については、10月12日の部会で厚労省が提案した「極端に高い額を貸与価格とする場合には、あらかじめ保険者の了解を必要とする」との記述を変更し、「自由価格を基本としつつ、一定の上限を求めることが適当」と、給付額の上限設定などを念頭に置いた表現に改められた。

 また、次期制度改正において、国が商品ごとに、当該商品の貸与価格の全国的な状況を把握し、「ホームページにおいて全国平均貸与価格を公表する仕組みを作ることが適当」などの具体策に取り組む考えを示した。

 この他、利用者が適切な福祉用具を選択できるよう、福祉用具専門相談員が、貸与しようとする商品の特徴や貸与価格に加え、当該商品の全国平均貸与価格等を利用者に説明することや、複数の商品を提示することを義務付ける方針も明記。

 併せて、利用者に交付しなければならない福祉用具貸与計画書を「ケアマネジャーにも交付することが適当」と、義務化する考えも盛り込んだ。

住宅改修、原則自己負担見送り

 住宅改修については、「事業者により技術・施工水準のバラツキが大きい」などの課題があることを明記。

 これに対し、▽事前申請時に利用者が保険者に提出する見積書類の様式(改修内容、材料費、施工費等の内訳が明確に把握できるもの)を国が示す▽複数の住宅改修事業者から見積りを取るよう、ケアマネジャーが利用者に対し説明する▽保険者の取組の好事例を、国が広く紹介することを通じて、全国的に広げていく――などの具体策を明記した。

 このほか、登録制については、「導入を求める意見があった一方で、市町村の判断に委ねるべきとの意見があった」と両論を併記したほか、原則自己負担についても、「現行制度を求める意見が多くあった」と、見送る方針を明確にした。

利用者負担、3割引き上げ明記へ

 利用者負担や高額介護サービス費については、この日の素案には盛り込まれていないが、厚労省からは現役並み所得者の負担割合を2割から3割に引き上げる案や、課税世帯(一般区分)の高額介護サービス費を、現行の3万7,200円から4万4,400円に引上げるなど、所得に応じた負担拡大の具体案が示されている。

 また、40~64歳の保険料負担に「総報酬割」を導入していく案も示されており、年末までの意見書の取りまとめの中で、これらの方針についても明記される見通しになっている。

 法律改正を伴う、その他の大きな課題では、要介護認定の簡素化が、「更新認定有効期間の上限を36カ月に延長することを可能とすることが適当」としているほか、介護認定審査会委員などの事務負担の軽減を図るため、長期に渡り状態が変化していない者については「二次判定の手続きを簡素化することが適当」との方針を盛り込んだ。

 被保険者の範囲については、介護保険を取り巻く状況の変化も踏まえつつ、「引き続き検討を行うことが適当」と、次期制度改正以降に検討を進めていく方針が示されたほか、現金給付についても、「現時点で現金給付を導入することは適当ではないと考えられる」と、次期制度改正に盛り込まない方針を明記した。

地域密着型通所介護の指定拒否

 「②地域包括ケアシステムの深化・推進」は、▽自立支援・介護予防に向けた取り組みの推進▽医療・介護の連携の推進▽地域包括ケアシステムの深化・推進のための基盤整備――の柱からなり、地域包括ケアシステムの深化・推進に向けた具体的な見直し策が並ぶ。

 ポイントは「地域包括ケアシステムの深化・推進のための基盤整備」だ。

 介護保険サービスの一類型として、新たに「共生型サービス」を位置付け、障害福祉サービス事業所が介護保険事業所の指定を受けやすくするための見直しを行うことを明記。具体的な指定基準のあり方については、介護報酬改定にあわせて検討が行われる。

 また、介護人材確保に関して、介護ロボットやICT化に関する実証事業の成果を十分に踏まえた上で、「ロボット・ICT・センサーを活用している事業所に対する、介護報酬や人員・設備基準の見直しなどを18年度介護報酬改定の際に検討することが適当」と、人員基準や報酬で評価していく方針も示されている。

 サービス供給への保険者の関与では、急増する地域密着型通所介護について、小規模多機能型居宅介護などの普及をさらに進める観点から、「市町村が地域密着型通所介護サービス事業所の指定をしないことができる仕組みを導入することが適当」との見直しを行う方針だ。

 併せて、定期巡回・随時対応型訪問看護や小規模多機能型居宅介護を推進していく観点から、市町村が都道府県に対して指定に関する協議を求めることができる「市町村協議制」について、短期入所生活介護を対象に加える方針も明記した(現行は訪問介護・通所介護だけに限定している)。

 このほか、安心して暮らすための環境の整備として、有料老人ホームの前払金保全措置の対象拡大など、入居者保護の強化のための施策を充実させていく考えも示されている。

ケアマネジメントの自己負担「引き続き検討」

 「自立支援・介護予防に向けた取り組みの推進」では、適切なケアマネジメントの推進として、特定事業所集中減算の見直し、入退院時における医療・介護連携の強化などの観点から、居宅介護支援事業所の運営基準の見直しを18年度介護報酬改定の際にあわせて検討するとしている。

 ケアマネジメントに関する利用者負担の導入については、賛否両論を併記し、「引き続き検討を行うことが適当」との方針を明記した。

リハ・地域密着・特養、次期報酬改定で検討

 ニーズに応じたサービス内容の見直しでは、リハビリテーションについて、▽通所リハと通所介護の役割分担と機能強化、特に通所リハについて、リハ専門職の配置促進や短時間サービス提供の充実▽通所リハ・訪問リハを含めた、退院後の早期リハビリテーションの介入の促進▽職種間や介護事業所間の連携の強化――について、「18年度介護報酬改定にあわせて検討することが適当」と、報酬上で評価していく考え。

 同じく、小規模多機能居宅介護や看護小規模多機能、定期巡回・随時対応型訪問介護看護などの地域密着型サービスについては、サービス供給量を増やす観点、機能強化・効率化を図る観点から、人員要件や利用定員などの見直しを次期報酬改定にあわせて検討するのが適当としている。

 特別養護老人ホームについては、今後、より一層重度化が進んでいくことが想定されているため、施設内での医療ニーズや看取りに、より一層対応できるような仕組みについて、報酬改定で検討していく方針が示されている。


(シルバー産業新聞2016年12月10日号)

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