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都市部85歳以上人口急増 有老・サ高住受け皿に

都市部85歳以上人口急増 有老・サ高住受け皿に

 厚生労働省は9月13日の社会保障審議会介護保険部会(部会長=遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)で2021年制度改正のテーマの一つ、介護サービス基盤整備について議論した。都市部では、今後介護ニーズが高い85歳以上高齢者の伸びが大きく、有老・サ高住も含めた受け皿の整備が焦点に。あわせて、40年以降の需要減を見据えた計画的な整備策として、用地確保や既存建物の活用事例等を紹介した。

 この日のテーマは①介護保険事業(支援)計画②介護サービスの基盤整備③認知症総合施策の推進――の3つ。②の基盤整備では都市部、地方部の課題や地域の実情に応じた整備の進め方・手法を論点の一つとした。

35年まで増え続ける85歳以上

 15~25年の10年間で後期高齢者人口の推移をみると、75~84歳は1138万人から28.3%増の1460万人となり、25年にほぼピークを迎える。これに対し、85歳以上は494万人から45.7%増の720万人。その後も35年まで一貫して伸び続けると推計されている。

 また、都道府県別では、神奈川と大阪が18~25年の7年間で85歳以上が15万人弱、また埼玉、千葉、愛知は10万人前後増え、いずれも11~18年の増加数を上回る。これに連動し、介護サービス利用者も都市部を中心に40年まで伸びる保険者が多く、18年の2倍になるところもある

重度化する介護付有老

 同省はサービスの受け皿の一つに介護付有料老人ホーム(特定施設)をあげ、「重度者の受け皿、終の棲家として一定の役割を果たしている」と現状を説明。同サービスの今後のあり方を論点にあげた。

 介護付有老は、有料老人ホームのうち特定施設入居者生活介護の指定を受け、ホーム事業者が介護保険サービスを提供する施設。それ以外の「住宅型有老」は外部サービス事業者を利用する。18年6月時点で有料老人ホーム全体の定員は51.4万人、うち介護付有老は24.1万人となっている。

 特に近年は都市部での介護付有老の整備増が顕著。15~17年の3年間で特養、介護付有老、住宅型有老、サ高住の整備状況をみると、合計した整備量(定員ベース)は16.6万人、このうち三大都市圏(首都、中部、近畿)が8.2万人とほぼ半数にあたるが、介護付有老は、3年間の整備量2.0万人分のうち、三大都市圏は1.6万人と8割を占める。

 特定施設利用者のうち40.7%は要介護3~5。また、退去者に占める「ホーム内死亡」の割合も30.0%と、特養の41.1%と比べても開きが少ない。委員からは、特定施設を特養と同等のサービス水準に引上げ、重度者対応をより強化すべきとの意見や、介護付有老と同程度存在する住宅型有老を介護付有老にシフトさせ、既存の住まいを生かした介護サービスの充実を図るとの案も。

 一方で「サービスの整備計画だけでなく、それに見合った具体的な人材対策も盛り込んだ介護保険事業計画にしなければならない」(日本介護福祉士会・石本淳也会長)など、人材確保と並行した議論を求める声もあがった。

需要減見据え建物転用等も

 一方、施設等の充実策に対しては、用地確保の問題や、「40年代以降、高齢者数がピークを越えるとサービス量も減り、今度は空室の問題が出てくる。施設等の整備に対しては、既に慎重な姿勢をとる地域も多い」といった指摘も。同省はこの日、各地で取り組む既存建物の転用や、地域のニーズに応じた複合サービス拠点等の事例を紹介。計画的な整備に向けた検討を促した。

 岐阜市の「岐阜シティ・タワー43」は高層マンション(43階)の6~14階をサービス付き高齢者向け住宅とすることで、「住まい」の用地を確保。3~4階には診療所や調剤薬局、訪問看護、通所介護、託児所といった医療・介護・福祉サービスが入り、1~2階は商業施設としている。

また、既存施設の活用例では、特養「たんねの里」(新潟県柏崎市)が廃校となった小学校校舎を改修・増築。芦別慈恵園(北海道芦別市)は特養申込者の減少と軽度者の市外施設等への移住増を受け、定員を86人から14人に縮小し、その分をサ高住へ転用している。

廃校を特養へ転用した「たんねの里」

 一橋大学国際・公共政策大学院教授の佐藤主光氏は「『施設のライフサイクル』という考え方が大事」と強調。「長い目で見て、転用またはつぶすことが可能な建物でなくてはならない。国交省では公共施設の再利用計画が別途進んでいる。連携も必要だ」と述べた。

 地域ニーズへの対応例では、京都市の地域密着型総合ケアセンター「おんまえどおり」を紹介。コンパクトな用地に地域密着型特養と小規模多機能、住宅型有老、さらに地域交流サロン・研究施設を併設。介護と住まい、通いの場の受け皿を作っている。

 また、人口3861人、高齢化率32.2%(18年3月時点)の長野県川上村では「ヘルシーパーク」を創設。一つの建物に診療所、訪問看護、通所介護、地域包括支援センターや入浴施設、憩いの湯、トレーニングルーム等を完備し、これらは一本の廊下でつながっている。限られた地域資源の中で保健・医療・福祉・介護の一元化を図ることが目的。各サービスのスタッフは毎日顔を合わせ、情報交換を行っている。

 日本介護支援専門員協会副会長の濵田和則氏は「同一拠点での複数サービス提供については、合算した人員基準を設けるなど、柔軟に対応すべきだ」と、人材確保の視点から緩和策を提案した。

(シルバー産業新聞2019年10月10日号)

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