介護保険と在宅介護のゆくえ

ソーシャルワークに自己負担はそぐわない/服部万里子(連載91)

ソーシャルワークに自己負担はそぐわない/服部万里子(連載91)

 8月末に厚労省の介護保険部会が始まり、来年の介護保険法改正の論議がスタートした。しかし、肝心の介護保険改正案の討議が具体化されていない中で、12月には結論を出すとされていることが問題である。

 「介護保険の自己負担を原則2割へ」「ケアマネジメントに利用者負担導入」のほか、要支援に加え「要介護2までの生活援助、通所介護を介護保険から外し、市町村事業へ移行」、市町村の成果に合わせて交付金を出すインセンティブの項目拡大と、その「財源を税金から保険料に変更する」など、負担増にかかわることの具体案について論議がされていない。

 「記録の簡素化」や「介護報酬改正に向けた調査項目」も大切だが、十分な議論がなされないまま「タイムアウト」への不安がある。

 小規模多機能などの事業所団体は「制度改正提案」を出している。日本介護支援専門員協会は、「ケアプラン提案時にサービス事業所ごとの価格を提示し、安価な事業所を選ばせることの義務化」に対して、「サービスの質アップで加算を取得した事業所が選択されない逆方向」と反対の声を上げてきた。

 また、居宅介護支援事業所の43%に主任ケアマネジャーがいない現実から、「管理者要件の実施の延長」などの意見を上げてきた。何よりもケアマネジメントへの自己負担導入を阻止しなければならない。

①自己負担導入の3つの誤り

 第一は、直接サービスと異なるソーシャルワークに、利用者からお金をとることの誤りである。

 ケアマネジメントは排泄介助や食事介助などの直接サービスとは異なり、介護状態に向き合いニーズをアセスメントし、必要な支援をコーディネートするソーシャルワークである。スクールソシャルワーカーが不登校児の相談でお金はとらない。障がい者の就労相談や生活困窮者の相談などで、相談者からお金をとることはない。ケアマネジャーが要介護者から自己負担金をとるのは誤りである。

 第二は、「利用者負担導入でケアマネジメントの質が上がる」という主張の誤りである。1割負担から2割負担、3割負担を導入して、介護保険の質は上がらない。保険給付を減らし、自己負担に変えただけである。むしろ「金を払っているのだから」とケアマネジメントの公正中立性を脅かすことにつながりかねない。

 第三は、利用者負担導入は要介護者の自立支援に反することだ。介護サービス利用者の世帯構成は、独居が最も多く次いで老夫婦世帯であり、要介護になる原因のトップは認知症、次が脳血管疾患である。年齢は80歳以上が75%である。10月から消費税率が上がり、介護保険のサービス費も上がった。

 後期高齢者医療保険で1割から2割負担へ、介護保険も2割負担を基本とする方向がだされ、多床室の居住費徴収など軒並み「利用者負担増」が予測される中で、ケアマネジメントへの自己負担導入は、「要介護者の自立した日常生活の支援」に反する。4点杖が介護保険レンタルで自己負担100円で利用できる一方、ケアマネジャーに毎月1000円払うなら、「我慢する」という利用者が出ないとは限らないのである。

②AIでの自立支援プラン作成の疑問点

 リクルートキャリアは先ごろ、「リクナビ」サイト利用者の閲覧情報をAIで分析し、「内定辞退率予測」の情報を個人に無断で企業に販売したとして、個人情報保護委員会から改善勧告を受けた。顧客企業から応募者の個人情報(大学・学部・氏名)を提供してもらい、リクナビが保有する情報と照合して個人を特定し、行動データを過去のユーザーのものと照らし、内定辞退率を算出した。企業にとっては、内定しても「辞退する可能性が高い学生は採らない」ことで採用コストの無駄を省くことができる。

 一方で介護分野では、昨年からAIによる自立支援ケアプラン作成システムが販売されている。国保連合会にケアマネジャーが入力提出した利用者ごとの実績データ10万件を元に、AIを使って要介護度が改善した利用者の「介護保険サービスメニュー」を抽出するものである。ここで3つの疑問がある。

 第一は、保険者が国保データを企業による販売目的の「AIによる自立支援プラン作成の基本情報データ」として提出することへの疑問である。

 第二はデータを購入する居宅介護支援事業所が、ケアマネジャーしか得られない「主治医の意見書」「要介護認定情報」から、「疾患名」「認知症自立度」「障害老人の日常生活自立度」その他の認定情報を入力してシステム販売企業に提出することが、「個人情報保護」に抵触しないかという点である。

 個人氏名を出さないとしても、企業へ居宅介護支援事業所から提出された情報が、AIによる自立支援プラン作成の基本情報データとして活用されるならば、事業所は「利用者の個人情報」に触れないか?もちろん利用者の了解はとるとしても、「ケマネジャーが作成するプラン」のためではなく、企業が販売するシステムへの情報提供である。

 第三の疑問点。これが基本だが、国保の実績データは介護保険サービスしかない。住宅改修、保険外の配食、緊急通報、見守り活動、コミュニティーカフェ参加など、市町村の独自サービス(総合事業とは別)や国が提唱している地域資源活用は出てこない。障害福祉や精神保健福祉のサービスも出てこない。医療保険の訪問看護、診療、投薬などを抜きに、「何が介護度改善に結びついたか」は出ないのではないか。この問題は今後の検討課題である。

 当面の緊急課題は来年の介護保険法改正に、利用者の声をどう反映させるかである。ケアマネジャーへの期待は高い。

 服部万里子(日本ケアマネジメント学会 理事)

シルバー産業新聞2019年10月10日号

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