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山口県の介護保険 介護テクノロジー補助金予算10倍

山口県の介護保険 介護テクノロジー補助金予算10倍

 県全域の市町に人口がバランスよく分布する山口県。今年度は介護テクノロジー定着補助金を昨年の10倍に増額し、介護現場の職場環境改善を強く推し進める。将来の認知症人口増加に備え、県民への認知症についての啓発、当事者の声を活かした施策に力を入れる。

 山口県の総人口は、今年度の126万人から2040年には105万人へ減少する。この間、高齢者人口は45.7万人から42.4万人まで減少するが、それ以上に年少人口および生産年齢人口が減るため、高齢化率は36.0%から40.0%に上昇する。

 同県は、人口や経済などの機能が単一の都市に集中するのではなく、複数の市町にバランス良く分布する分散型都市構造が特徴。多くの地方で見られる県庁所在地などの都市部と、その他人口減少地域といった構造ではない。下関市が人口23万人で最多であり、県庁所在地の山口市は18万人と2番目につける。その他、宇部市、周南市、岩国市、防府市といった人口10万人を超える都市が並ぶ。しかし、これらの市もその多くが平成の大合併で核になる市と旧郡部が合併して形成されたため、瀬戸内海に面した沿岸部に人口が密集し、山間部の多い内陸部では過疎化が進むといった人口の偏りが見られる。

働きやすい職場を担い手にアピール

 県の介護職員は22年度時点で2.8万人であり、将来的な不足数は足元の26年度に2700人、35年度にピークの3400人と推計される。全国同様、中山間地域を中心に介護人材の確保が課題となっている。

 人材確保の前提として職場環境の充実は必須であり、県では「やまぐち働きやすい介護職場宣言」として、人材育成やキャリアパス、給与改善等の就業環境の改善に関する基準を満たした事業所を認証する制度を運用している。ホームページへの掲載に加えて、毎年冊子を介護福祉士養成施設や高校へ配布し、進路を考える若い人や、介護業界への就職を考える人に情報発信を行っている。現在、92事業所・施設が認証を受ける。

福祉・介護フェスで人材のすそ野を広げる

 介護現場のいまを伝えるためのイベントを22年度より毎年秋に開催している。今年度も「福祉・介護フェス2025」と銘打って11月8日(土)にKDDI維新ホール(山口市)で開催予定。働きやすい介護職場宣言の認証事業所の取り組みが紹介される。

 昨年は施設でのテクノロジー導入による人手不足解消や職員の負担軽減、ケアの質の向上に加え、40年に向けて事業所が生き残るための経営理念の確立、採用、助成金活用などについての発表が行われた。また、福祉機器.介護ロボットの展示会や体験イベントも同時開催。「いま就職を希望する人だけでなく、これから進路を決める若い世代にも、介護現場に興味を持ってもらい裾野を広げることを目指している」と長寿社会課介護政策班長の中井陽一郎さんは語る。
昨年秋に開催した「福祉・介護のしごと魅力発信フェア」。いま事業所が抱える課題解決に向けて発表する

昨年秋に開催した「福祉・介護のしごと魅力発信フェア」。いま事業所が抱える課題解決に向けて発表する

介護テクノロジー活用を強力に推進

 介護職員の負担軽減に向けて、日々の記録など事務作業の電子化、あるいは移乗介助などでの身体的負担をICTや介護ロボットの導入により軽減することで、より働きやすい職場づくりの支援を行う。

 県では機器導入に向けた助成金を継続して交付してきたが、規模は他府県に比べて大きくなかった。しかし今年度から現場の声を受けて、より重点的にテクノロジー化を進める方針となり、昨年度の予算約6400万円から、今年度は約6.7億円と10倍に規模を拡大した。当初250事業所への補助を見込んで予算編成し、7月初めに募集を開始したが、同月末には申請額が予算額に達した。

 「生産年齢人口が減り、人材確保のハードルが上がる中、介護テクノロジー活用への期待は大きい。交付件数に加えて、1件あたりの補助額.上限も上げて、より高額であっても機能の高い機器を導入し、単体の機器だけではなく事業所の業務全体の改善に向けた活用をして欲しい」(中井さん)

オレンジドクターが認知症を早期発見

 国の有病率を元にした県の認知症高齢者数の推計は40年で6.3万人、その予備群である軽度認知障害(MCI)の人と合わせると約13万人に上る。将来的に高齢者の3.3人に1人が認知症とその予備軍になる。「全国より高齢化率が高い当県では、特に対策に力を入れている」と同課地域包括ケア推進班長の梅田和明さんは語る。

 認知症の早期発見や適切な治療につなげるため、県では「オレンジドクター」をホームページで公表している。物忘れや認知症に関する相談支援を行う医師で、かかりつけ医認知症対応力向上研修など所定の研修を受講後に登録される。オレンジドクターの診療支援を行う専門医は、プレミアムオレンジドクターとして登録される。現在、県内でオレンジドクター298人、プレミアムオレンジドクター91人が登録。受診時に認知機能低下が疑われる場合などは、必要に応じて県内8カ所の認知症疾患医療センターへ繋ぎ、その後の生活を自分らしく組み立てることや、認知症の進行を緩やかにすることを目指す。

当事者の声を活かした認知症施策を推進

 県では認知症本人大使として「やまぐち希望大使」を任命し、認知症当事者の声を伝え、地域づくりを進めている。全国的には広がりを見せる取り組みだが、中国地方で県を挙げて実施しているのは山口県が初。希望大使の派遣事業を認知症の人と家族の会山口県支部に委託し、市町が行う普及啓発活動や認知症サポーターの養成研修などの場で当事者の力を活かしている。

 県内には124カ所の認知症カフェが設置されており、さらなる設置促進と県民への普及.啓発を目標に認知症カフェサミットを年1回実施。カフェの運営がうまくできるように好事例の紹介やグループディスカッションを行う。また、他県の認知症本人大使や、認知症分野で深い見識を持つ医師や研究者らを講師に招いた講演会や座談会も催される。模擬カフェを開き、これまで認知症カフェに足を運んだことのなかった人に向けても認知の輪を拡げている。

 また、認知症のある本人の視点に立った施策を推進するため、19年度より各市町の行政担当者と医療機関の職員などが2人1組のペアで認知症施策を学びグループワークを行う「オレンジパワー活用セミナー」を継続している。

 「昨年施行された認知症基本法でも認知症の人の意見を直接聞いて施策に反映することが記されている。引き続き施策の充実に努めていきたい」(梅田さん)
認知症カフェサミット。県内から多くの運営に携わる人が集まる

認知症カフェサミット。県内から多くの運営に携わる人が集まる

(左から)長寿社会課中井さん、梅田さん、村岡さん

(左から)長寿社会課中井さん、梅田さん、村岡さん

(シルバー産業新聞2025年9月10日号)

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