ニュース

介護の悩み「よだれ」に新治療法 慢性流涎に初の保険適用薬

介護の悩み「よだれ」に新治療法 慢性流涎に初の保険適用薬

 高齢者介護の現場において、患者本人だけでなく介護者の大きな負担となっている「よだれ」。パーキンソン病や脳卒中などを原因とする「慢性流涎(まんせいりゅうぜん)」は、これまで有効な治療法が限られ、見過ごされがちな症状だった。こうした中、今年6月、帝人ファーマのA型ボツリヌス毒素製剤「ゼオマイン筋注用」(一般名:インコボツリヌストキシンA)が、国内で初めて慢性流涎の効能・効果で追加承認を取得。保険適用となる新たな治療の道が開かれた。

相談しづらく、見過ごされがちだった症状

 慢性流涎とは、唾液の分泌量が飲み込む量を上回ることで、意図せず口からよだれが慢性的に流れ出てしまう状態を指す。パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳卒中といった神経や筋肉の疾患が主な原因として知られている。

 患者本人には、誤嚥性肺炎など身体的な影響に加え、「恥ずかしい」「人と会いたくない」など心理的な苦痛も大きく、社会的な孤立につながるケースも少なくない。介護者にとっては、頻繁な着替えや洗濯、寝具の交換といった介護負担の増加は、身体的・精神的な疲弊につながる。

 2016年に全国パーキンソン病友の会(丸山美重代表理事)が行ったアンケート調査では、65%の患者がよだれの症状に「問題がある」と回答しており、多くの当事者を悩ませている実態がうかがえる(グラフ)。国内の慢性流涎の患者数は全国的な調査はないものの、原因疾患の有病率から約18万人から38万人に上ると推定されている。

 これほど多くの患者・介護者を悩ませているにもかかわらず、慢性流涎の症状は医療現場で十分に相談されてこなかった実態がある。海外の調査では、流涎を経験したパーキンソン病患者の45%が、その症状について医療関係者に相談していなかったとの報告もある。さらに、相談しても、患者側は「医療従事者から軽視されている」と感じているという調査結果も報告されている。

新たな治療の選択肢「ボツリヌス療法」

 今回、慢性流涎の治療薬として承認された「ゼオマイン筋注用」は、「ボツリヌス療法」に用いられる薬剤だ。これまでは上下肢痙縮の治療のみ保険適用とされていたが、慢性流涎の効果・効能が追加承認された。

 この治療法は、ボツリヌス菌が作り出すたんぱく質を有効成分とする薬剤を唾液腺(耳下腺、顎下腺)に注射し、唾液の分泌を促す神経の働きを抑えることで、よだれの量を減らすというものだ。効果は約3~4カ月持続するとされ、患者の状態をみながら投与間隔を調整し、治療を継続する。

 ただし、副作用として、唾液の量が減ることで口の渇きや食べ物を飲み込みにくく感じることがある。口腔環境も悪化しやすくなるため、歯磨きなどで口の中を清潔に保つ必要がある。また、重症筋無力症といった全身性の筋疾患や、アレルギーの既往歴がある場合など、投与できないケースもあるため注意が必要だ。

 順天堂大学の服部信孝特任教授は「慢性流涎は患者や家族のQOLに深刻な影響を及ぼす」と指摘し、「積極的な声かけと治療を期待したい」と呼びかける。服部教授は、よだれの悩みはデリケートな問題で言い出しにくいため、「よだれで困ることはありませんか」と本人や家族へ一声かけることで、適切な治療につなげられる可能性があると話す。

(シルバー産業新聞2025年9月10日号)

関連する記事

2024年度改定速報バナー
web展示会 こちらで好評開催中! シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル