インタビュー・座談会

対談 入浴文化と介護テクノロジーの融合

対談 入浴文化と介護テクノロジーの融合

 アース製薬(東京都千代田区、川端克宜社長)と家電メーカーのシリウス(東京都台東区、亀井隆平社長)は、入浴ケアにおける介護する人の負担などの課題解決に向けて、アース製薬のもつ皮膚の潤いを保ちながら清潔に保つことができる「MA-T技術(Matching Transformation System)」を、シリウスの介護用洗身用具「switle BODY(スイトルボディ)」に用いる展開を進めている。25年度の厚生労働省の補正予算事業「介護事業所等に対するサービス継続支援事業」(実施は26年度)として、介護事業者向け補助金の交付対象となる可能性が高く、普及に向けた動きが加速している。社会課題の解決に向けた展開について、川端社長と亀井社長が語った。

皮膚の潤いを守りながら清潔保持

 アース製薬 川端社長 介護現場の人手不足や入浴ケアの負担など多くの課題が顕在化している中で、MA-T技術が課題解決に役立つのではないかと考えています。この技術は、亜塩素酸イオンから必要な時に必要な量の活性種(水性ラジカル)を生成させる独自のシステムです。この働きにより、高い衛生レベルが求められる現場での清潔保持に貢献します。

 シリウス 亀井社長 使い勝手の良さと確かな洗浄力を両立し、デリケートな肌への配慮もなされた、一歩進んだ技術と言えますね。

 川端 そうです。皮膚に潤いを与えながら清潔に保つことができるMA-T技術は介護分野への活用に大いに期待しているところです。
川端社長

川端社長

 亀井 介護用洗身用具「スイトルボディ」と、MA-T技術を応用した専用のケアウォーターを組み合わせて使用することで、皮膚を衛生的に保つことができ、機器のメンテナンスも簡便なので、要介護者と介護する人の双方にとって、大きなメリットになると思います。

 川端 高齢者の皮膚は若い人に比べて薄く乾燥しやすいです。汚れが蓄積しやすい環境は、お肌のトラブルの原因にもなりかねません。MA-T技術は、清拭によってお肌を清潔に保ち、健やかな状態をサポートできる技術だと考えています。
亀井社長

亀井社長

入浴介助の負担を軽減

 亀井 施設で入浴介助を行う場合、一般的にはスタッフ3人体制で、1人の入浴に40~50分ほどかかることも珍しくないです。多量の水や設備も必要であり、人手不足の現場にとっては大きな負担となっています。

 スイトルボディを用いれば1Lの水で全身を洗うことが可能となり、衛生を保ちながらケアを行うことができます。結果として介護者の負担軽減にもつながります。

 川端 日本には古くから入浴文化があります。入浴は単に身体を洗うだけではなく、健康やリラックスにも関わる生活習慣です。しかし、高齢になると自力で入浴できない人も増えます。そうした人に入浴に近い清潔ケアを技術で補うことができれば、生活の質の向上につながると考えます。

災害時にも役立つ衛生技術

 亀井 災害が発生すると入浴環境の確保には時間がかかります。能登半島地震でも、多くの避難所で入浴ができない状況が続きました。

 スイトルボディとMA-Tの併用は、お肌を清潔に保ち、ニオイの元となる汚れを落としながら身体を洗うことができます。スイトルボディによる洗浄は、避難生活においてもお肌を健やかに保つのに有効でしょう。

 川端 日本は災害の多い国です。だからこそ平常時から災害を想定した仕組みを整えておく必要があります。近年は「フェーズフリー」という考え方が注目されています。普段から使っているものがそのまま災害時にも役立つという考え方で、MA-Tは日常の介護ケアと災害対策の双方で活用できる技術といえます。

補助制度が普及を後押し

 亀井 厚生労働省の補正予算「介護事業所等に対するサービス継続支援事業」ではBCP対策の一環として、介護施設への導入費用が全額補助(介護サービス別、規模別に上限あり)される仕組みが設定されており、26年度にかけて多くの自治体で申請受付が始まります。

 災害時の備えとしてだけではなく、入浴介助の負担軽減や、介護施設の標準的な入浴回数(1週間に2回程度)を補完するものとして、日常的に活用することが認められています。施設にとっては導入のコスト面でのハードルが下がり、身体をきれいにしてほしい入所者の要望にも応えるような活用をしていただくことを期待しています。

 川端 新しい技術が社会に普及するためには、性能だけでなく制度や流通の仕組みも重要です。補助制度は、社会実装を進めるうえで大きな後押しになると感じています。

制度課題と技術革新

 亀井 訪問入浴サービスは介護保険制度とともに制度化されましたが、現在では、人材不足などの影響で地域によっては事業者がいないところもあるようです。

 開始から四半世紀が経ち制度疲労も見られる中、技術の力を活用しながら新しい介護の形を模索していく必要があると思っています。

 川端 企業が社会課題の解決にどう関わるかも重要です。MA―T技術を通じて清潔ケアの新しい方法を提案することで答えを提供できるのであれば、社会的意義は大きいと考えます。

 亀井 我々にとってうれしいのは、25年4月に第11回「ジャパン・レジリエンス・アワード(国土強靱化担当大臣賞)」を公益財団法人国際医療財団、特別養護老人ホーム六甲の館(神戸市、溝田弘美理事長)とともに受賞できたことです。

 協働で受賞した六甲の館は、24年度「介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰」を受賞されたケアの質と働き方(生産性向上)で定評のある施設です。そうした介護現場で活用いただき、その取り組みが評価いただけたことは、我々にとって非常に自信につながりました。

 川端 日本は世界でも有数の高齢社会で、介護の課題に最前線で向き合っている国です。ここで生まれた技術やノウハウは海外でも役立つ可能性があります。

 多くの分野の社会課題を解決できる技術として、MA-Tは当社独占でなくオープンイノベーションとして展開しています。20年11月には産官学連携の「日本MA-T工業会」を発足させました。22年9月末時点で90社に参画いただき「医療ライフサイエンス」「食品衛生」「農業林業」「表面酸化」「エネルギー」などで採用されています。

 亀井 MA-Tは、医療や農業、環境など多分野に応用できる可能性を持つ技術です。介護分野で社会実装を進めながら、その価値を広く伝えていきたいと考えています。

災害時の衛生保持対策高く評価

 アース製薬とシリウスは昨年4月、特別養護老人ホーム六甲の館(神戸市、溝田弘美理事長)、国際医療財団(東京都大田区、瀬島俊介代表理事)とともに、第11回ジャパン・レジリエンスアワードで国土強靱化担当大臣賞を受賞した。災害時、避難先での衛生環境の保持と感染対策について、4者が連携した取組みが評価された。

 周囲を濡らさず洗身できるシリウスの「switle BODY(スイトルボディ)」にアース製薬の「MA-T」技術を用いた「switleCareWater(スイトルケアウォーター)」を採用し、特別養護老人ホーム六甲の館で利用者に使用してもらった。また、国際医療財団も連携した。

 「スイトルケアウォーター」は、清水タンクの水1Lに10mlを混ぜて使用。器具から清潔な状態で供給され、要介護者のニオイのもととなる汚れを落とす。腐食性が非常に低く、使用する都度除菌をする手間が軽減される。

「ジャパン・レジリエンスアワード」受賞

 ジャパン・レジリエンスアワードは、自然災害に強いまちづくりや、大災害発生時に被害の最小化や迅速な復旧・復興につながる活動や開発に取組む企業・団体を表彰する。24年に内閣総理大臣賞、国土強靭化担当大臣賞が創設された。

 高齢者や障がい者、妊産婦、乳幼児などの要配慮者は安心して過ごせる福祉避難所の確保が求められているが、指定避難所のうち福祉避難所の割合は約1割(内閣府・消防庁調査)。

 今回の受賞でMA-T技術の介護分野への展開が新たな可能性として示され、社会実装がさらに進むことが期待されている。

(シルバー産業新聞2026年4月10日号)

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