コラム
これからの福祉用具提案 根拠ある複数提示【屋内用歩行器】(連載11)
昨年4月から義務化された福祉用具貸与の「機能や価格帯の異なる複数の商品の提示」。本連載では現場で想定されるケースから、具体的な複数提示の例を解説します。今回のテーマは歩行補助杖です。
Yさんの事例
自宅で一人暮らしのYさん(70歳女性、要介護1)は、右足の変形性ひざ関節症により、人工関節置換術の手術とリハビリを受けて退院しました。入院中のリハビリでは、松葉杖を使って歩行訓練を行い、院内の移動や階段昇降ができるようになりました。歩行時の痛みはなく、ひざ関節もおよそ130度まで曲げることができます。しかし、筋力の回復が遅く、少し長く立っていたり、歩いていたりすると、足から力が抜けてひざが「カクン」と曲がってしまうことがあります。買い物や散歩に行きたいYさんですが、歩行支援用具を使わずに屋外を歩くのは難しい状況です。
筋力低下への支持性、屋外での実用性から複数提案
Yさんのニーズから、選定提案の「福祉用具が必要な理由」は「一人で買い物や散歩を楽しみたいので歩行補助杖を使用します」と設定します。Yさんは手術・入院で筋力が低下し、長時間立っていたり、歩いたりすることができない状態です。体重をかけてもしっかりと支持してくれる杖、屋外で使いやすい杖が提案候補になるでしょう。
歩行補助杖は多種多様ですが、今回は①リハビリで使い慣れている松葉杖②1本でも松葉杖と同等以上の支持性を誇るロフストランドクラッチ③屋外での実用性が高い四点杖――を候補にしました。③の四点杖は比較的設置面が狭く、さらに支柱が稼働式で、階段や平らではない坂道などでも使いやすい機種を想定しています。この場合の選定提案には、「一時的な筋力低下により、長い時間立ったり歩いたりすることができないので、多点で体重を支持し、屋外でも使いやすい機種を使用します」などと記載しました(表)。
歩行補助杖を複数提案する際、デザインなどの好みだけでなく、事例のように支持性や屋外での使いやすさなどの情報をしっかり伝えて、利用者に選んでもらわなければなりません。病院でリハビリを担当していたセラピストなどと連携して提案ができれば、より安全な利用に繋がるでしょう。
歩行補助杖に限らず、歩行支援用具は生活範囲を広げ、閉じこもりや孤立化も防ぎ得る福祉用具です。下肢筋力や痛み、可動域、歩行バランスなど、状態と使用環境にあった複数提示ができるようにしましょう。
高齢者生活福祉研究所所長 加島 守
(シルバー産業新聞2019年3月10日号)
(シルバー産業新聞2019年3月10日号)