I C Fからの福祉用具アプローチ

屋内用歩行器編/加島守(連載9)

屋内用歩行器編/加島守(連載9)

 福祉用具に関わる専門職には、環境が変われば参加や活動を促し、そして福祉用具の活用で生活が変わる可能性をしっかりと利用者・家族へ示し、提案することが求められています。本連載では「ICF(国際生活機能分類)」の考え方をモデルに、活動・参加、生活を変える福祉用具支援を解説します。今回は屋内用歩行器の導入事例について、ICFの考え方から読み解いてみましょう。

事例 移動だけでなく、「運ぶ」もサポートする歩行車

 自宅で一人暮らしのEさん(80歳女性)は、持病の腰痛が悪化。数年前から歩行時や起き上がる際に痛むようになり、その後、要介護2の判定を受けました。屋内は柱などにつかまりながらの伝い歩きで、3分も歩き続けると腰に強い痛みが走ります。

 そこでまず特殊寝台と前輪歩行器をレンタルすることを決めました。導入後は起き上がりや歩行時の痛みがずいぶんと緩和され、伝い歩きよりもずっと安全に家の中を移動できるようになりました。

 一方で、歩行器は両手が塞がってしまうので、食事や洗濯物を運ぶことができなくなります。せっかく自立しているEさんのIADLを妨げないよう、歩行器を返却して、屋内用の歩行器を使ってみてはどうかと再提案しました。

 入れ替えた屋内用歩行器はテーブル付きで、ちょっとしたものを運ぶのに最適です。これにより、Eさんは痛みも抑えつつ、お弁当や洗濯物、郵便物などを運べるようになりました。夫の仏壇のお供え物を毎日取り換えられるようになったことに、特に満足された様子です。

 Eさんのケースでは、初めに腰の痛みを軽減し、安全に家の中を移動する目的のみで歩行器を導入しました。

 一方で、実生活では、単に場所を移動するだけでなく、何かを運ぶために移動することが多々あります。

 Eさんの場合は、▽台所から食卓へ食事を運ぶ▽洗濯物をベランダへ運ぶ▽玄関から郵便物を運ぶ▽台所から仏壇へお供え物を運ぶ――などで、そうしたニーズに応えるために物を運ぶ機能を備えた歩行支援用具が上手く活用されました。

 「単に移動を支援する用具でいいのか」「物を運ぶ機能も必要なのか」。利用者の生活をしっかりとアセスメントすることで、より適した製品の選定に繋がります。入れ替えが比較的柔軟なレンタルの強みを生かし、導入した用具が十分に利用者の活動・参加、生活を向上させているのか、ICFの視点で適宜チェックしましょう。
 加島 守(高齢者生活福祉研究所・所長/理学療法士)

(シルバー産業新聞2020年2月10日号) 

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