I C Fからの福祉用具アプローチ

スロープ編/加島守(連載7)

スロープ編/加島守(連載7)

 福祉用具に関わる専門職には、環境が変われば参加や活動を促し、そして福祉用具の活用で生活が変わる可能性をしっかりと利用者・家族へ示し、提案することが求められています。本連載では「ICF(国際生活機能分類)」の考え方をモデルに、活動・参加、生活を変える福祉用具支援を解説します。今回はスロープの導入事例について、ICFの考え方から読み解いてみましょう。

目標「外出」に向けた段階的な支援

 自宅で奥さんと2人で暮らすAさん(70歳・男性)は2週間ほど前に腰を痛め、第1腰椎圧迫骨折と診断されました。処方された薬を服用しながら、自宅療養を始めましたが、なかなか痛みが改善されません。就寝時も腰の痛みで熟睡できず、日中はいつも倦怠感があります。歩行時は特に痛みが強くなるため、伝い歩きでなんとかトイレや洗面所に移動しているということでした。

 Aさんの希望を尋ねたところ、▽夜間はぐっすり眠りたい▽家の中をもっと楽に移動したい▽日課だった犬の散歩をしたい――と訴えられました。そこで、まず就寝中の痛みを和らげるために、特殊寝台の膝上げ・背上げ機能を活用することを主治医と相談しました。15~20度くらい背を起こした「セミファーラー位」は、腰痛や足の痛みを緩和してくれることがあります。また屋内移動をしやすくするため、レンタル手すりの利用をAさんへ提案しました。

 特殊寝台と手すりを導入した結果、夜間よく眠れるようになり、屋内の移動もこれまでよりずっと楽に行えるようになりました。「夜ぐっすり眠りたい」「屋内を楽に移動したい」というニーズが解決されるとともに、Aさんの「以前のように愛犬と散歩へ行きたい」という気持ちは大きくなっていきます。

 しかし、Aさんの今の状態では、屋外の歩行はまだリスクが高かったため、「犬を膝に抱えて、車いすで外出すること」を提案したところ快諾を得られました。

適切なスロープ選定で愛犬と散歩へ

 アセスメントでAさんの体格や状態にあった電動車いすを選定。Aさん宅の出入り口には20cmの段差があったため、併せて可搬型スロープをレンタルすることになりました。スロープは一枚板タイプで長さ160cmの機種を選びました。

 あくまで目安ではありますが、介助がある場合で段差に対して8~10倍の長さのスロープが必要になります。長さが足りないと傾斜角度が急になり、上り下りが負担になってしまいます。

 最近では中継台やL字型など、大きな段差であっても、緩やかな角度になるよう設計された機種もあります。

 導入後、Aさんはスロープと車いすで無理なく、外へ出られるようになり、家の近所を愛犬を膝に抱えて散歩できるようになりました。Aさんは「痛みが改善すれば、車いすではなく歩行車で出かけたい」とさらに意欲をみせてくれています。この事例も前回と同様、まずは「痛みを緩和してしっかり眠る」「屋内移動の負担を軽減する」といった緊急度の高い課題解決に取り組み、生活が安定してから次のステップへ進んでいます。

 こうした段階を踏んだ支援を実践するためにも、ICFの体系的視点で利用者の状況を把握するようにしましょう。
 加島 守(高齢者生活福祉研究所・所長/理学療法士)

(シルバー産業新聞2019年12月10日号) 

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