連載《プリズム》

裁判官 山口良忠

裁判官 山口良忠

 山口良忠という日本の裁判官がいた。敗戦時の食糧難の時に、ヤミ米を食べるのを拒否して栄養失調で餓死した。(プリズム2020年6月)

 山口裁判官は、ヤミ米の所持で食糧管理法違反に問われた人の裁判を担当。取り締まる立場の裁判官自身がヤミ米を食べてはいけないと考え、配給は子どもに与えて、夫婦で口にしなかった。畑で芋を作って栄養改善に努めたらしいが、ヤミ米を絶って1年、1947年10月に栄養失調となり33歳で死亡した。「判事として正しい裁判をしたい。闇にかかわっている曇りが少しでも自分にあったならば、自信がもてないだろう。倒れるかもしれない。死ぬかもしれない。しかし、良心をごまかしていくよりはよい」と、生前に語っていた。

 東京高等検察庁の黒川弘務検事長が、産経と朝日の記者と賭け麻雀をしていたことを週刊誌にすっぱ抜かれ、訓告処分となり辞職に追い込まれた。検事にも賭け麻雀の常習者がいて、検事長にまでなるのだと驚いた。知り合いの裁判官がいたが、その人は家族で官舎に住み、自分の部屋には鍵をかけてだれも入ることができなかった。書類は風呂敷包みにし、裁判所とはタクシーで往復する毎日だった。法の番人として、時に人の生死まで与る裁判官のストイックさを感じたものだ。個人宅とはいえ、堂々と新聞記者と卓を囲むのだから、黒川検察官は相当に世慣れている人だったのだろう。

 高検の検事長ともなれば、政治家や官僚との関わりは避けられない。政府の法遵守をチェックする立場であり、常に緊張感をもって、職務に向かい合っているはずだ。しかし、首根っこを握られていては仕事ができない。元検事総長ら検察OBが法務省に検察庁法改正に反対する意見書を提出したのは、政府が人事を握り三権分立の基本をないがしろにする現状に強い危機感をもったからに違いない。

 検察OBから国への意見書提出に、法曹界で仕事をするプロの多くが安堵した。黒川元検事長は、山口良忠裁判官の言葉をどう聞くのだろうか。

(シルバー産業新聞2020年6月10日号)

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