連載《プリズム》

国民会議の報告原案

国民会議の報告原案

 参院選は自民党の圧勝に終わった。多くの国民が日本の経済再生を願った結果だろう。各党のマニフェストは、国民のセーフティネットである社会保障の制度改革についてはあいまいな表現に終始した。7月29日、選挙の終わるのを待っていたかのようにして、社会保障制度改革国民会議の報告書の原案が示された。(プリズム2013年8月)

 制度の持続のために、国民の痛みを伴う改革も辞さないという覚悟で昨年11月末にスタートした国民会議。示された基本方針は、これまでの高齢者偏重の施策を見直し、子育て世代を含む全世代を見据えた社会保障制度へと転換することだ。「『給付は高齢世代中心、負担は現役世代中心』という構造を見直して、給付・負担の両面で世代間・世内の公平が確保された制度にすること」と明記した。

 年金の保険料を払っていない若者が増えている。報告書案は、「子育て世代が日々の暮らしに安心感をもち、将来に対し、夢と希望がもてるように社会保障を構築することで、若い人も納得して制度に積極的に参加することができる」とした。

 全世代型の社会保障への転換は、中福祉中負担の日本の現状では、高齢世代の社会サービスの抑制や負担増につながる。国民会議が掲げた、要支援者の保険給付外化もそのひとつだ。報告書原案では、「要支援者に対する介護予防給付は、市町村が地域の事情に応じて、受け皿を確保しながら段階的に移行させていくべきである」と記述された。

 市町村の困惑する顔が見えてくる。確かに、医療と介護の連携や、介護職の専門性を促進する一方で、地域で幅広い人たちを生活支援サービスの担い手に導くことは大切な施策になる。しかし、いま要支援者は100万人だ。その給付費は全体の5%にすぎず、費用対効果が高い。今後一層必要となる社会資源をみすみす解体するメリットなどない。

 保険給付の枠組から予防サービスを外す根拠を示さなければ、国民の納得は得られない。国は「成熟社会の構築へのチャレンジ」としてふさわしい方向性を示すべきである。

(シルバー産業新聞2013年8月10日号)

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