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強度行動障害に対応した人材育成⑤ 相応のスキルと専門性を担保する研修体系を/中山清司(187)

強度行動障害に対応した人材育成⑤ 相応のスキルと専門性を担保する研修体系を/中山清司(187)

 強度行動障害状態の利用者に適切な支援ができることを目指し、毎年1万人以上の現場スタッフが参加する「強行研修」(強度行動障害支援者養成研修)。現在、全国各地で開催されている同研修は、基礎研修12時間・実践研修12時間で構成されている。

 受講生および受講生を派遣する障害福祉サービス事業所からすれば、4日間(最短3日間)の受講で研修修了となり、生活介護や施設入所支援の事業所は報酬加算を取ることができる。また、行動援護従業者養成研修と同等と見なされるので、修了者は行動援護事業のヘルパーとして働くこともできる。

 現在、コロナ禍の影響で、強行研修のほとんどのカリキュラムがオンラインとなり、ほぼ集合研修がなくなった。民間の研修事業者が多数参入しており、読者の皆様は、インターネットをチェックしていただくと、数多くの強行研修の機会があることに驚かれるかもしれない。研修費は一人3万円~6万円が相場だが、毎月どこかで開催されており、それだけ需要があるということだろう。
 筆者は、重度知的障害に対応した入所施設や通所事業所、あるいはご家庭の支援で、強度行動障害状態の自閉症の人と数多く接してきた。

 強行研修の受講生には大変失礼な言い方になるが、筆者の経験で言えば、4日間のオンライン学習や座学で強度行動障害の人への直接支援が実際に担えるとはとても思えない。

 同業者の中で、強行研修の講師やファシリテーター(受講生のグループワークをサポートするスタッフ)をしている者が何人かいる。

 彼らから漏れ聞こえてくる話では、強行研修は「詰め込みカリキュラムで、受講生は内容を確認するだけで精一杯」「受身的に参加する受講生が大半で、なかなか前向きに取り組んでもらえない」といったネガティブな感想が多い。
 直接的な対人援助スキルを伴う研修・資格として、高齢者福祉における「介護福祉士」と比較してみよう。

 こちらは国家資格で、養成・研修時間は、実務経験3年以上で600時間程度、養成施設や高校では1800時間程度が必要で、その上、国家試験に合格しなければならない。また、介護・福祉関係の仕事が未経験でも取得できる「介護職員初任者研修」(旧ヘルパー2級)で、130時間の研修カリキュラムが設定されている。

 しかし強行研修の場合、実務経験も資格要件も必要なく、現場に配属されたスタッフが基礎・実務で計24時間を受講すれば修了となる。あまりにも強行研修が(ひいては強度行動障害支援が)「軽く扱われている」と思うのは、筆者だけであろうか。
 もちろん、このような研修形態に至った要因はさまざまあるだろう。筆者が思いつくまま挙げれば、以下のような事情を指摘できる。

 ①障害福祉サービスの現場では、一部を除いて、そもそも現場スタッフに資格要件が求められていない。つまり、誰でもすぐに現場に入り、障がいのある人の直接支援に従事できる。

 ②そこには、障害福祉の現場スタッフには、それほどの専門性が求められなかったという歴史的経過がある。その結果、職員待遇も他業種に比べ劣位のままで、それは結局今の人材不足を招いている。

 ③したがって、強度行動障害支援に従事する現場スタッフの育成にも、十分な財源も必要性も想定されていない。
 残念ながら、強行研修の実態と受講生の実情を見ると、人材育成に対する予算投資が中途半端で、投資効果が十分に得られていない(つまり、強度行動障害支援に寄与していない)と、筆者は評価する。

 強度行動障害支援をはじめ障害福祉サービスの担い手には、相応のスキルと専門性が求められるのであり、そのための研修体系と待遇を伴うべきというのが筆者の意見だ。少なくとも、強度行動障害の人への直接支援に対応できるだけの、リアルな研修プログラムが用意されなければならない。
(シルバー産業新聞2022年11月10日号)

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