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「構造化」は刺激を排除するやり方? ④ /中山清司(177)

「構造化」は刺激を排除するやり方? ④ /中山清司(177)

 前回説明したとおり、強度行動障害の入所者に施錠対応し、それを「構造化」という支援用語を使って正当化する施設が少なからずある。その背景としてすぐに思い浮かぶのは、スタッフ配置の少なさとトレーニング不足、施設・建物の老朽化、居室をはじめとする狭い居住環境、脆弱な日中活動プログラムなどだ。つまり、強度行動障害に対するハード面・ソフト面の対策が圧倒的に弱いということだ。

不適切な対応招く慢性的な人員不足

 施設は、少なくとも国が定める「人員、設備及び運営に関する基準」に則らなければならない(そうしないと認可されない)。例えば、入所者の居室では「利用者1人当たりの床面積は、収納設備等を除き、9.9㎡以上とすること」と決められており、1人6畳の空間でよしとされる。

 ここにベッドを入れ、机やタンス、テレビを入れたら、ほとんどいっぱいになるだろう。人員(スタッフ配置)も細かく決められているが、要するに、施設を経営するにあたっては、なるべくこの最低基準で運営しようとするのだ。

 というのも、収入にあたる、利用者支援に対する給付費(報酬単価)もまた国が規定しているため、安定経営を目指すなら、支出(人件費や設備費)をなるべく切り詰めようとするからだ。その結果、スタッフの待遇を大幅に改善することはできず、実際、どこの施設も慢性的な人員不足に陥っている。
 こういう経営上の制約があるため、入居者からの給付費が同じなら、「なるべく対応の難しくない人を受け入れたい」「対応の難しい入に手厚くかかわれない」という現場判断になっていく。強度行動障害の方々が施設に入れない問題が前者なら、施錠対応は後者の行きつく先と言えるだろう。

 現場の理屈で言えば、強度行動障害のある入所者の居室にカギをかけ、長時間そこで過ごしてもらう。そのことで、とりあえず他の入所者の生活は安定し、日々のスタッフワークも何とか維持できる――ということで常態化していくのだ。
 しかし、外部からの刺激を減らし、居室の中に長時間居させる対応で、行動障害がさらに悪化する事例が多く見られる。自分の髪の毛や爪を抜く、傷をいじる、つば吐きやろう便、壁に頭突きを繰り返すなど、いわゆる自己刺激行動が増えるのだ。

 機能的に見れば、他にやることがない中、自分の身体を使って何とか過ごそうとするのだろう。あるいは、極端に活動意欲が低下し、半ば寝たきり状態のようなケースも出てくる。施設の限られた条件の中、強度行動障害の悪循環の連鎖を断ち切り、より良い支援を見つけていかなければならない。

 「施錠対応・外部からの刺激を減らす」に代わる、本来の「構造化」のアプローチを、次回、提案したい。
(シルバー産業新聞2022年3月10日号)

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