現場最前線の今

緊急事態宣言を受けて ② /中山清司(連載158)

緊急事態宣言を受けて ② /中山清司(連載158)

 新型コロナウイルス感染拡大防止に関する緊急事態宣言は、5月25日に全国で解除されることになった。この間、政府や感染症の専門家、マスコミは、新型コロナウイルスの新規感染者数や死亡案件、クラスターの発生状況を日々刻々と発表するとともに、重症患者を受け入れる病院や医療従事者のひっ迫、海外におけるロックダウンやパンデミックの事態を取り上げ、いわゆる「3密」を避けて「ステイホーム」するよう国民に強く自粛要請してきた。

利用自粛で困窮する障害福祉サービス事業所

 4月22日、新型コロナウイルス感染症専門家会議では「人との接触を8割減らす、10のポイント」が公表され、外出時のマスク着用やソーシャルディスタンス(社会的距離)が求められ、実際、外出する人が皆無になった地域・地点が取り上げられるようになった。日本中で経済活動が停滞し、国や自治体は給付金や補助金などで手当てをしているが、一人ひとりの生活の困窮、失業、経営破綻などが社会問題になっている。

 感染防止に向けた「人との接触を8割減らす」取り組みは、緊急事態宣言が解除されたのち「新たな日常」へと引き継がれることになる。政府は5月25日~ 7月31日までの約2カ月間を、そのための「移行期間」と位置付け、現在に至っている。

 この4、5月の緊急事態宣言発出中にあっても、知的障がい・発達障がいの子どもたちや成人の方々が通所利用する多くの福祉サービス事業所が開所し、可能な限り利用者を受け入れてきた。本来業務である福祉ニードのある利用者・家族への支援をしつつ、感染防止に努めている。

 各現場では、利用者・支援スタッフへの手洗い・マスク着用・検温などを日常的に励行するとともに、事業所内や送迎車両の消毒、3密を避けるための物理的な整理(レイアウト変更や飛沫防止シールドの設置など)をおこなっている。さらには、事業所への分散通所や開所時間の短縮、送迎サービスや集団活動の停止をおこない、事業縮小に伴うスタッフの休業指示と休業手当、それに伴う現場スタッフの配置調整、通所利用を控えた利用者への家庭訪問やテレビ電話相談などの代替サービスの提供などをおこなっている。

 通所系の障害福祉サービス事業所を運営する側から、今回の緊急事態宣言の影響を指摘すると、利用自粛に伴う利用収入減少による経営の圧迫が最も大きな問題だ。障害者総合支援法に基づき、障害福祉サービス事業所の運営は、利用実績に伴う介護給付・訓練等給付が主たる財源になっている。そのため、今回の新型コロナウイルスによる利用自粛で、仮に利用実績が通常より2割減ると(例えば、10人定員の事業所で8人しか利用していない)、利用収入が2割減ることになる。

 そうは言っても、事業所の固定費支出(家賃やスタッフの人件費など)を急に2割も減らすことはできない。事業所運営に必要なスタッフの配置基準は国から決められているし(今回は特例措置がとられたが)、スタッフの雇用を守る必要もあるので、利用者が少ないからすぐにスタッフの勤務を減らすということはできない。家賃支払いも同じで、収入が減ったら家賃を減額できるものではない。今回の利用自粛が長期化すると、経営体力のない福祉サービス事業所は廃業や事業所閉鎖などの事態も想定される。

 障害福祉サービス事業所と違って、支援学校をはじめ公立学校の経営収支に通学実績は連動するものではない。そのため、今回の緊急事態宣言で学校が臨時休校となり実際に児童・生徒が通学しなくても、学校経営は安泰だし、先生たちの給与保障も万全のはずだ。余談になるかもしれないが、このような制度設計が、不登校の児童・生徒がいても学校側にインセンティブが働かない一因だと、筆者はみている。(つづく)

NPO法人自閉症eスタイルジャパン 理事長 中山清司

(シルバー産業新聞2020年6月10日号)

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