千田透の時代を読む視点

千田透の時代を読む視点143 改定検証調査 「貸与原則」踏まえた問いになっていない

 7月25日に開かれた社会保障審議会介護給付費分科会では、24年度介護報酬改定の効果検証を行うための調査研究事業について議論が行われたが、気になったのは、福祉用具貸与と販売の選択制に関する調査の中で、現在、選択制の対象になっていない貸与種目について、購入を希望する利用者の声を集める設問が用意されていることである。

 調査は、全国すべての福祉用具事業者と、居宅介護支援事業所6000事業所に対して行われる。同じく、全国1572カ所の市区町村保険者すべてにも、現在選択制の対象でない貸与種目のうち、選択制の対象に加えた方が良い種目を問うている。

 違和感を覚えるのは、これらの設問が介護保険における福祉用具の「貸与原則」を踏まえた問いにはなっていない点だ。

 言うまでもないが、介護保険における福祉用具は、ケアマネジメントのもと、利用者の身体状況や要介護度の変化、あるいは福祉用具の機能の向上に応じて、適時・適切な福祉用具を利用者に提供できるよう、貸与を原則としている。その上で、他人が使用したものを再利用することに心理的抵抗感が伴うもの、使用によってもとの形態・品質が変化して再利用できないものが、例外的に特定福祉用の販売種目となっている。

 選択制が導入される際の議論でも、貸与原則は維持しつつ、選択制の対象種目は、あくまで〝例外〞という位置づけで制度が導入された経緯がある。

 そうであるにも関わらず、利用者や保険者に、貸与種目の中から購入を希望する用具を問うのは何故なのだろうか。調査をするのであれば、貸与原則の話や、選択制のメリット・デメリットを利用者・保険者に十分に説明した上で実施しない限り、おかしなことになりかねない。仮に購入を希望する声が大勢を占めたり、購入を希望する用具が多岐に及んだりした場合、その結果をもとに、貸与原則を見直すとでも言うのだろうか。稚拙な議論だけは避けるべきであろう。

 大事なのは、現在の介護保険における福祉用具の利用実態などを詳しく調べて、利用者にとって果たしてどのような形が、保険給付の在り方として最も相応しいかを見極めていくことである。

(シルバー産業新聞2025年9月10日号)

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