千田透の時代を読む視点

予算執行調査、ミスリードされぬよう注意が必要だ/千田透(連載85)

予算執行調査、ミスリードされぬよう注意が必要だ/千田透(連載85)

 10月7日に財務省から予算執行調査結果が公表された。同調査は、財務省が予算の執行実態を調査して、改善点などを指摘し、予算の見直しや執行の効率化につなげていくのが目的だが、その中で、1年間で内容が同じケアプランがどの程度存在するかについて調査結果と改善策が報告されている。

 具体的には、全国すべての保険者に2018年4月と19年4月のケアプランの内容を書面により調査し、1年間でケアプランの内容が変わっていない割合が25.5%あったと報告している。この結果を踏まえ、財務省は利用者負担がないため、利用者がケアマネジメント業務の質に関心を持ちにくい構造になっていると指摘し、「利用者負担を設定することで利用者自身がケアマネジメントの質に関心を持つようにすることも考えられるのではないか」と、ケアマネジメントに自己負担を導入することを求めている。

 こうした主張は、レポートを見た人のミスリードを誘うため、あえて誤りを指摘しておきたい。まず第一に、ケアプランの内容が1年間同じであることと、利用者負担を求めることを関係づけているが、これはまったく別次元の話である。そもそも、ケアマネジャーが作成したケアプランが同じであることが、あたかも悪いかのような前提に立っているが、適切にケアマネジメントをした結果、ケアプランが1年前と同じであっても、そのこと自体は何ら問題はない。疾患を抱えた患者が医師の診断の下、1年前と同じ処方をされても問題ないのと同じである。

 大事なのは、1年前と同じケアプランになっている理由を客観的に説明できるかどうかであって、ケアプランそのものが同じかどうかは問題ではない。しかも、その検証は保険者の責任で行うものであり、そのためにケアプランチェックや地域ケア会議などの権限を持たせてあるのであって、自己負担の導入によって、利用者にチェックさせるようなものではないのである。

 また、今回の予算執行調査では、福祉用具貸与のみのケアプランが全体の6.1%を占め、そのうち1年間同じ内容のケアプランを要介護別にみると、軽度者である要支援1、2が全体の4分の3を占めたと報告している。さらに、その内容を精査したところ、歩行補助杖、歩行器、手すりが7割を占めていたことから、これらの廉価な福祉用具を貸与から販売に移行させることで「毎月のケアプラン作成等のケアマネジメントの費用は不要となる」としている。

 参考例として、販売価格が1万円の歩行補助杖を3年間使用した場合、「販売」の場合だと1万円の費用が、「貸与」だとケアプラン料も含め、41万4000円の費用がかかるとしているが、こちらの資料の出し方もミスリードを誘っている。そうであるなら、ターミナル期などに販売価格が何十万もするような福祉用具を、数カ月だけ貸与した場合の費用の試算も併せて示す必要があるだろう。

 何よりも、介護保険における福祉用具は「貸与」が原則であり、入浴・排泄で用いられる「他人が使用したものを再利用することに心理的抵抗感が伴うもの」や、リフトの吊り具のような「使用により、もとの形態・品質が変化し、再度利用できないもの」を「販売」にするという原則を歪めてしまうことになる。そうした場合の福祉用具の選定・適合やメンテナンスなどをどのように行っていくのだろうか。安易な見直しが行われないよう、制度改正の議論を注意深く見守っていきたい。

(シルバー産業新聞2020年11月10日号)

関連する記事

2024年度改定速報バナー
web展示会 こちらで好評開催中! シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル