未来のケアマネジャー

居宅介護支援の報酬改定の行方/石山麗子(連載21)

居宅介護支援の報酬改定の行方/石山麗子(連載21)

 報酬改定の議論は社会保障審議会介護給付費分科会(以下「分科会」という)で行われる。各サービスに関する具体的な議論が本格化するのは秋以降、まさにこれからである。報酬の具体的な単価が示されるのは、過去の例では1月中旬から下旬にかけてとなる。

これから本格化する報酬改定の議論

 公の場で議論されていない事項は報酬単価には反映されにくい。分科会の議論を注意深く読み取ることは極めて重要だ。分科会などの公の場で議論された内容は総合的に判断され、報酬改定に至る。報酬改定のゆくえは、事務局が提示した資料・論点に対し有識者や各団体の代表者、いわば国民の代表ともいえる人たちが「何を語り、何を主張されたか」に左右される。
 では分科会でのケアマネジャー(以下「ケアマネ」という)に関する意見をみてみよう(表1)。
 1つ目の意見に賛同するケアマネは多いだろう。実際、制度創設以来今日まで居宅介護支援の収支差益はマイナスが続いてきた(表2)。ケアマネジメントは公正であり続けることが専門性の基盤となる。経営的依存状態は、有言無言のプレッシャーとなり専門性の基盤に影を落とす。経営的独立、法人として独立した居宅介護支援が理想であることはいうまでもなく、筆者も継続して主張してきたところだ。
 とはいえ、黒字化の事業所モデルもある。ケアマネ1人あたりの利用者が31人~35人、36人~40人確保されている事業所(43.1%)である場合、また特定事業所加算(Ⅰ)、(Ⅱ)を算定している事業所(28.5%)である。収支差率▲0・1%の意味の解釈は微妙である。同じマイナスでも、その幅が大きかった過去と比較した要因分析は必要であるし、職員3人以下で黒字経営を維持することは介護業界以外であっても難しい。数字だけで判断するのは短慮である。なぜなら一部地域を除けば高齢者数は増加する一方で、居宅介護支援事業所数の増加率は高くないという環境がある。考えようによっては経営戦略の立て方、商品の質(ケアマネジメントの質)、地域とケアマネの関係性や連携状況等の関連もある、との見方もできるからだ。

自分とは180度違う意見に耳を傾ける

 基本単価アップに慎重な姿勢を見せたのは、経団連だ。経団連といえば、ちょうど去年の今頃、介護保険部会で居宅介護支援費の利用者負担導入の検討に前向きだった。今回も同様の意見が付されている。なぜ多くのケアマネとは180度異なる意見なのか。介護保険の財源構成を考えれば想像できる。普段接する機会の多い利用者やサービス事業者の立場の二者間の思考に偏らず、保険料や税を負担する立場、働く世代の意見をどう受け止めるべきだろうか。日本は例外であるはずの赤字国債の発行を続けている。もしかすると私たちはこの異常事態に慣れてしまっていないだろうか。
 国の借金は過去最高1114兆円を超え、国民一人当たり740万円ともいわれる。大学1年生の社会保障に関する授業でそれを話したら、「その借金、誰が払うのですか」と言われ答えに窮した。コロナ禍の今をなんとか乗りきるための各種支援対策は重要、一方で分科会にも選挙にも参加していない未来の日本を担う若者の意見も慮り、時に意見を聞くことも必要だ。
 そうした全体性も意識し、各サービスの報酬の分配がどうあるべきか優先順位をつけて検討する必要があるだろう。
 石山麗子(国際医療福祉大学大学院 教授)

(シルバー産業新聞2020年9月10日号)

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