未来のケアマネジャー

ケアマネジャーにソーシャルアクションはできるのか/石山麗子(連載20)

ケアマネジャーにソーシャルアクションはできるのか/石山麗子(連載20)

 近所との関わりが希薄化した今日、直接家の中に入る職種であるケアマネジャーは、家庭内にくすぶる課題の発見機能を実質的に担っている。コロナにまつわる社会的課題が本格的に浮き彫りになるのはまさにこれからだ。

家庭内にくすぶる課題を発見

 えてして家庭内の問題では内々に解決を試みようとしがちで外からは見えにくい。居宅サービス受給者数は約377万人。その家族への目配りも含めればケアマネジャーへの期待は大きく、手腕が問われる。一方で過去の属人的な経験知に頼るだけでは問題を見落としかねない。

家族の問題が高齢者の生活にのしかかる

 リーマンショックを境に高齢者をめぐる課題は激変したが、ケアマネジャーはそれに対応するだけの権限や教育を与えられることもなく、実践上は対応を余儀なくされた。そもそもケアマネジャーだけで解決できる課題でもなかった。今思えば、このような社会の構造的な変化に無理解な学者や行政から、ケアマネジャーは対応力の低さを指摘されるばかりだった。ケアマネジャーだった当時のもどかしく悔しい思いは忘れられない。だから今、実践者にそういう思いをさせたくない。

 リーマンショック以降の課題の特徴は、家族の問題が高齢者の生活に大きくのしかかるようになったことだ。子の非正規雇用や解雇、生活困窮・借金、介護離職、引きこもり、親の金銭搾取、虐待、心中等である。今回コロナによって生じる課題は、我々の想定を超えるかもしれない。

京都で起きたALS事件を授業に

 時代の変化は、新たな専門職の使命を引き出し、訴えかける。課題の傾向が変化すれば新たな対処技能や感受性も求められる。しかし、新たに求められる技能を見極められなければ学習は遅れ、使命は果たせない。ケアマネジャーの資格創設以来、これほどまでに専門職の高潔な感受性を求められたことはあっただろうか。

 今こそ学びの時だが、コロナ感染防止を理由に研修はほぼ中止されており、Web環境整備の出遅れはケアマネジャーをめぐる大きな課題である。結果として利用者に不利益をもたらさないことを祈るばかりである。

 筆者の大学院、ケアマネジメント専門の修士課程では、Web活用で4月から授業を開始し、前期を無事に終了した。今年は世界を揺るがす事態を見据え、授業のテーマに柔軟性をもたせることを意識した。その一つにケアマネジャーが行うソーシャルアクションがある。

 大学院生(ケアマネジャー、地域包括支援センター職員)とともにソーシャルアクションとその研究法について毎週Zoomで議論を重ねてきた。

 社会福祉士以外の基礎資格を有するケアマネジャーにとっては、非常に目新しい概念で、こうした知識こそ必要だったという感想もあった。

 また京都で起きたALS(筋萎縮性側索硬化症)の人の事件について、発覚直後の授業で緊急的に取り上げ、倫理、哲学、制度、相談面接技能、意思決定支援の盲点などを複眼的にディスカッションした。筆者は特に倫理こそ緊急性のある領域だと考えているため、常に倫理的問題については時を逸さず議論の場を設けるようにしている。

 つまるところ、社会の要請に応えるのが専門職の使命であり、その遂行に必要となる技能をタイムリーに修得でき、研究にまで繋げる視点を意識している。これはプロフェッショナリズムに依拠する。

 超多忙のなかZoom開催のゼミに集まり、毎回真剣に議論する大学院生を心から誇りに思い、今後の彼らの活躍を期待している。主任ケアマネジャー以上の学びを体系的に得たい人にはぜひ大学院に進学し専門性に磨きをかけてほしいと思う。

ケアマネジャーは社会の変化に立ち向かえ

 ソーシャルアクションに関し、この給料でそこまで求められても困る、いまこそやらなくてはならないなど、考えはそれぞれだろう。主任介護支援専門員に求められるのは後者で、ソーシャルアクションに繋げるマインドを持つ人だと思う(管理者要件は別の議論なのでここでは触れない)。ケアマネジャーの未来の構造と機能について覚悟をもち、真摯に考えることは、わが国の人口の4分の1を占める高齢者の今後の未来に直結する。

 今年を単なる改定に向けた議論の年とみるなら読みは甘い。生きることは変化を覚悟することに等しい 。現在の社会保障制度の基盤は戦後に作り上げられてきたが、過去に経験したことのない状況下で従前の方法論などでは限界があり、いまそのパラダイムは崩壊しつつある。改正・改定よりも改革が必要だ。果たしてケアマネジャーにソーシャルアクションはできるのか。

 先日、政府が示した骨太の方針2020。副題は「危機の克服、そして新しい未来へ」である。未来の高齢者の安寧をも確信させる「新たな日常」につなげる中心職種はケアマネジャーであってほしいと願う。


 石山麗子(国際医療福祉大学大学院 教授)

(シルバー産業新聞2020年8月10日号)

関連する記事