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自らのアセスメントの甘さに気付く/宮下今日子(連載87)

自らのアセスメントの甘さに気付く/宮下今日子(連載87)

 品川区介護支援専門員連絡協議会(鈴木たづ子代表)は、「ケアマネジメントの標準化」研修を継続して実施しているが、基本ケアに続き、脳血管疾患のケースを学んでいる。今回もその事例を紹介したい。

「ケアマネジメントの標準化」 実践編その3

 南大井在宅介護支援センター(社会福祉法人さくら会)に勤務する若穂井秀樹主任介護支援専門員は、ケースを選ぶにあたり、9年前に脳梗塞で倒れ、現在は要支援2のSさん(72歳女性)に決めた。左半身に軽い麻痺があるが、シルバーカーを右手で支えて歩行ができる。デイケアを週1回(リハビリ・心理的ケア)、訪問介護を週2回(入浴介助)、福祉用具レンタル(手すり)を利用している。

 転倒によって要介護1と要支援2を行ったり来たりしてきたSさんだが、デイケアに通うことで近くのスーパーまで買物に行けるまでになった。

 Sさんの日常生活は▽食事は調理師免許を持つ長男が栄養管理も含めて作っている▽血圧も毎日測っている▽薬も飲めている▽病院の定期受診もしている――などを把握し、まずまずの生活だと若穂井さんは考えてきた。ただ、糖尿病があり太っているのが気になっていた。

 研修を受けた若穂井さんは、最初は石山麗子講師(国際医療福祉大学大学院)の話についていくのが精一杯だったという。ところが、講義の後、Sさんを通して実践してみたところ、日頃のアセスメントの甘さに気づいた。「アセスメントする時、本人が、できている、やっていると言っても、具体的にどうやっているのかを聞く必要性を感じた」と振り返る。では実践を見てみよう。

 研修会で石山講師は、脳血管疾患やその他の疾病のあるケースでも、まず「基本ケア」をしっかりやることだと強調する。

 そこで、若穂井さんは、まず、基本ケアのシートを使い、1日の食事内容を具体的に聞き、塩分・水分・カロリー・活動の量を数値化していった。その結果、塩分量とカロリー摂取量が高く、水分量と活動量は少ないことに気付いた。特に1日の総塩分摂取量は11.3gになっていた。通常は高血圧だけで1日6gが適量なのに、脳梗塞の既往歴があるとなると、11.3gはかなり高い。

 また、担当者会議の場で、若穂井さんは血圧手帳の測定時間に目がとまった。測定時間が起床直後ではなかったため、低く測定されていたのである。本人は2回測っていて、低く出る方を記録していたのが分った。すぐに受診を勧め、その結果、医師は薬の量を調整した。

 カロリー摂取量が多いのも、買物時に揚げ物の惣菜などを買って食べていたことが分った。こうして「基本ケア」で数値化していくことで、Sさんの生活実態が明らかになってきたが、ケアマネの理解は進んでも、実際には本人が自覚する必要がある。

 「ケアマネジメントの標準化」の脳血管疾患のテキストでは、まず、本人や家族へ疾患の理解を求めている。項目としては、1-1-1(ⅰ)「疾患の理解をうながす支援体制を整える」である。

 そして、Sさんに該当する項目として「目標血圧が確認できる体制を整える」「家庭(日常)血圧・脈拍等の把握ができる体制を整える」「栄養摂取状況が把握できる体制を整える」を選び、本人に向き合っていった。

 「ご本人は少し面倒くさそうに聞いていたが、塩分量の多さは長男に伝えることができ、驚いている様子だった」と話す。実際、その後のモニタリングでは、塩分量が10gに減っていた。

 今回の研修を受けて、若穂井さんは▽塩分が高い食事をしているから血圧が高めに出るという解りやすい構図が見えてきた▽起床1時間後の血圧を測定していた事実も見つけられ、主治医に報告でき血圧の薬を調整することに繋がった――とまとめる。

 石山講師は「脳血管疾患」で気を付ける点の一つ目は「再発予防」だと力説する。標準化の手法により、脳血管疾患再発のリスクとなる塩分量と血圧にケアマネが着目でき、改善された好事例と言えるだろう。

宮下今日子

(シルバー産業新聞2020年4月10日号)

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