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海外人材送出し国が多様化 巨大な潜在力、インドに活路

海外人材送出し国が多様化 巨大な潜在力、インドに活路

 少子高齢化が進展する中、外国人介護人材の確保は重要なテーマだ。政府は特定技能での介護分野の受け入れについて、2024~28年度の5年間で13.5万人を見込む。一方、他国・他分野との人材確保競争は激しさを増す。日本の外国人介護人材の6割以上をベトナム、インドネシア、フィリピンが占めるが、今後は送り出しチャネルの多様化と戦略的な働きかけが求められる。そうした中、新たに注目を集めているのが人口14億人以上を有し、世界一の移民送出国であるインドだ。SOMPOケアなどの一部の介護事業者はすでに現地機関と連携し、獲得に乗り出している。

ベトナムやフィリピンは鈍化

 介護分野の特定技能在留者数は24年末時点で4万4367人。その内訳をみると、インドネシア1万2242人、ミャンマー1万1717人、ベトナム8910人、フィリピン4538人、ネパール3602人と上位5カ国で9割以上を占める。

 1年前と比較した伸び率は、インドネシア65.2%増、ネパール57.8%増、ミャンマーに至っては147.7%増で、昨年6月には2番目だったベトナムをわずか半年で追い抜いた。そのベトナムの伸び率は12.3%増、フィリピンも29.8%増と近年鈍化している。ベトナムの送り出し先は日本がトップだが、台湾が競合するようになり、韓国や欧米の人気も高まっている。英語を公用語とするフィリピンも年間150~200万人が海外へ移住し就労するが、そのうち日本で就労する割合は2.6%に止まる。

 特定技能全業種に対する介護のシェア率はベトナム6.7%、フィリピン16.1%。三菱UFJリサーチ&コンサルティング(以下、MURC)は、この2国について在留者数は多いが伸び率は低い「成熟期」にあるとし、「成熟期に近づくほど業種間での獲得競争も激しくなる」と分析する。

 常に他国・他分野と競合する中、一部の送り出し国に依存すると安定的な外国人介護人材確保のリスクや不確実性を高めてしまう。将来を見据え、海外介護人材を確保するチャネルの多様化が求められているというのがMURCの指摘だ。

SOMPOら、インド人材獲得にいち早く着手

 そうした中、新たな送り出し国として注目され始めているのがインド。人口とともに世界一の移民送り出し国でもあり、20年時点で1790万人の海外在住者がいる。平均年齢28.4歳と若い一方、若年層の失業率は男女ともに15%を超え、海外へ移住労働者を送り出す圧力が高いとされている。2023年の一人当たりGDPは2239ドル(日本=3万7079ドル)。IMF(国際通貨基金)によると、途上国では1人当たりGDPの水準が2000~7000ドルの国では、より高所得の国への移住が増える段階にある。こうした背景から、MURCは経済成長とともにインドの人材送り出しの機運は今後さらに高まると見込む。

 SOMPOケアは昨年8月に、インドのNSDCインターナショナル(以下、NSDCI)と協業を開始した。NSDCIは政府系機関「インド国家技能開発公社」の100%子会社で、海外市場へ即戦力のインド人材を輩出することを目的に設立された。SOMPOケアはNSDCIへ、日本の介護分野で働くことを希望するインド人材に向けた教育プログラムを提供。現地で9カ月の教育を受けた後、特定技能の在留資格で来日してSOMPOケアの施設で就労する。7月には1期生として6人のインド介護人材が入社した。

 Zenkenも23年にNSDCIと協定を結んでいる。NSDCIの研修センターで日本語を学び、日本語能力試験N4と特定技能の介護評価試験に合格したインド人材を、Zenkenが日本の介護施設に紹介・斡旋する。同社を通じて受け入れを行った施設は「素直で明るく、学習意欲も期待以上」とインド人材を高く評価する。4人のインド人材が働く山梨県大月市の平成福祉会では、入社半年で法人のMVPとして表彰された職員も。同法人の星野敦課長は「いずれは中核を担う素質を充分備えている。しっかりと育てていきたい」と大きな期待を寄せている。

政府・自治体の積極的な支援が鍵

 こうしたインド介護人材確保の動きはまだ一部に止まる。MURCはインドについて「日本への送り出し規模は現時点では小さいが、伸び率は高く、また人口規模からも送り出し国として高い潜在力を持っている」と強調する。

 ただ、多くの介護事業者がインドから介護人材を受け入れる発想に至っていないことから、「政府や都道府県などが日本の介護事業者へ、インド介護人材の可能性やポテンシャルを積極的に周知していくことが重要」と指摘する。

 またインド側にも、他国と比較して日本で介護職として働くメリットや魅力を伝え、積極的に送り出してもらう必要がある。日本の介護職の利点には▽メインの送り出し先となっている中東などに比べて安全▽就労までの待機時間の短さや就職の確実性▽介護福祉士取得などの長期的なキャリア形成や取得後の家族の帯同――などが挙げられている。

 自治体や日系仲介企業、介護事業者などが、NSDCI、インド州政府、介護人材としての就労可能性が高い看護大学などとの連携や、現地の民間送出機関の掘り起こしに積極的に取組むことが重要だ。受け入れ規模が拡大すれば口コミによる自然増も期待できるようになる。

 MURCは、当面の対応策として、大手介護事業者は自ら主体となってインド送り出し経路の開拓や拡大に取り組み、それを政府や都道府県が支援することを提案。ノウハウや資源を持たない中小規模の介護事業者でも受け入れができるよう、都道府県が中心となって域内の介護事業者への情報発信やインド州政府との合意締結などに取り組むべきとしている。

(シルバー産業新聞2025年8月10日号)

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