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なちゅは代表 下元佳子さん ノーリフティングを当たり前の文化に

なちゅは代表 下元佳子さん ノーリフティングを当たり前の文化に

 1980~90年代にかけて、病院や介護施設では拘縮の強い人が多かった。「医師から拘縮改善の指示があるが、原因を取り除かずに毎日手足を動かしても治らない。力任せの移乗による体の緊張の積み重ねが、拘縮の原因ではないか」と下元さんは考え、ノーリフティングケアの勉強会を始めた。

 2008年、オーストラリアでリフト活用が国全体で進んでいると聞き、「どうすればリフトを皆が使うようになるのか」というヒントを探しに訪れた。そこで、リフトは「介護技術の一つ」ではなく、「労働安全の一環」として導入されていたことに衝撃を受けた。

 カナダやヨーロッパの施設を訪問した際も、日本のように重度の拘縮の人はほとんどおらず、福祉用具やリフトを活用し、拘縮を作らないケアが実践されていた。

 「職員も利用者も守る仕組みとしてノーリフティングの普及に力を入れた」と下元さんは振り返る。

ノーリフティングで拘縮予防

 リフトで体を支えると、太ももや体幹に荷重・負荷がかかるが、広い面積でしっかり支えることで安定し、緊張が自然に緩む。リフトによる移乗介助は、拘縮を予防するためのリラクゼーションの時間にもなる。

 拘縮の強い人は、ベッド上で手足をマッサージするよりも、リフトで吊り上げてリラックスさせた方が改善効果が見られることがある。

 「身体機能が低下しきる前に対応する。ノーリフティングケアは、自立支援そのもの」と下元さんは語る。

リフト導入で職員定着を

 一方で、「導入費用」と「心理的なハードル」がリフト普及の妨げとなっている。

 管理者は「高いから買えない」と考え、現場の職員は「どうせ使わなくなる。手で移乗した方が早い」と誤解している部分が大きい。

 「リフトを活用して腰痛を防ぎ、職員の定着率が上がれば、結果的に人件費の削減にもつながる。リフト導入の費用対効果は非常に高い」(下元さん)

 リフトは厚労省の介護テクノロジー導入支援補助金、エイジフレンドリー補助金などの対象にもなっている。

 「十分に調べないまま『高いから無理』と諦めてしまう事業所が多い」と下元さんは指摘する。

利用者・職員の健康を守る

 高知県では2016年度に、県を挙げてノーリフティングケアを推進する「高知県ノーリフティングケア宣言」を発信した。

 翌年、下元さんはナチュラルハートフルケアネットワークを法人化。県のモデル事業などを通じて支援しており、現在、県内の特養や老健などおよそ8割の施設がノーリフティングケアに取り組んでいる。

 人を持ち上げない風土を職種を超えて職場に根付かせることが定着のカギ。「重度の利用者が少ないからリフトを使うほどではない」といった考えをやめ、腰痛予防によって職員を守ることが、利用者を守ることにつながるという発想が重要だ。

 「抱え上げる介助だけが対象ではなく、手すりの設置や介助姿勢の工夫なども、要介護度や施設の規模に関係なく大切。直接介護に関わらない事務職員や厨房スタッフの作業姿勢など、トータルでアドバイスしている」(下元さん)。

マスクの様にリフトを使う

 下元さんは、オーストラリアの指導者に「ノーリフティングは感染対策と同じ」という言葉を受けた。

 「感染対策は個人の努力ではなく、組織でルール化して守るもの。コロナ禍の時には、誰もがマスクを着け、ゾーニングし、防護服を着て入室することが当たり前にできていた。リフトも利用者や職員の健康を守るツールとして、マスクのように〝使うのが当たり前〞という文化にしていくことが大切」と下元さんは語る。

(シルバー産業新聞2025年11月10日号)

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