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アルツハイマー新薬「アデュカヌマブ」 根本治療となるか

アルツハイマー新薬「アデュカヌマブ」 根本治療となるか

 米バイオジェンとエーザイ(東京都文京区、内藤晴夫社長)が共同開発したアルツハイマー型認知症治療薬「アデュカヌマブ」が6月7日、米食品医薬品局(FDA)で承認された。神経細胞死の原因とされるアミロイドベータを除去する効果が治験で認められ、根本的な治療薬としての期待が高まっている。一方、迅速承認をとったことで認知機能に対する効果の不十分さを指摘する声も多い。従来の認知症薬との作用の違いについて解説する。ケアメディックス(東京都文京区)社長・関本澄人氏(博士(理学))に取材協力いただいた。

 厚生労働省によると、国内の認知症の人数は2025年時点で730万人に達し、高齢者の5人に1人が発症すると推計。その原因疾患の6~7割を占めるのがアルツハイマー病で、物忘れ、時間・場所・人物の認識ができなくなる見当識障害、物事を順序立てて行うことが困難になる実行機能障害が主な症状とされる。

 アルツハイマー病の仕組みについては未だ解明中で、明確な原因が分かっていない。ただ、有力とされるものに「アミロイドカスケード仮説」がある。①脳内のアミロイドベータ前駆体タンパク質(APP)が酵素によって切断されて、アミロイドベータタンパク質(Aβ)がつくられる②Aβが集まってAβオリゴマーを形成し、神経細胞の表面にはりつき、老人斑となる③神経細胞内のタウタンパク質をリン酸化させ神経原線維変化を引き起こす④神経原線維変化が進行し神経細胞死(脳委縮)を起こす――といった発症機序をたどる。このため、認知症を発症した人の脳には特徴的なシミ(老人斑)と糸くずのようなもの(神経原線維変化)が発現する。
 今回承認されたアデュカヌマブはAβに対する抗体で、点滴投与した抗体が②で神経細胞に集まったAβに結合し、これを減少させる働きをもつ。神経細胞死を防ぐという点で従来の認知症薬と大きく異なり、「世界初の根本的治療薬」として注目されている。

 既に国内で承認されているドネペジル(商品名「アリセプト」)やガランタミン(レミニール)は認知症状の悪化を遅らせることが目的(表)。神経伝達が行われる際、神経細胞先端のシナプスからアセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質が放出され、隣の神経の受容体に取り込まれる。これが活発になることで記憶・学習が行われる。

 神経細胞死が進行するとアセチルコリンがうまく受容体に届かず、記憶障害などを引き起こす。また、受容体に取り込まれたアセチルコリンは一定期間が過ぎると分解され、機能を失う。この分解を行う酵素を阻害し、アセチルコリンにできるだけ長く働いてもらおうというのがドネペジルなどの作用である。

軽症者が対象

 アデュカヌマブは新薬の早期実用化を優先した例外措置、「迅速承認制度」により認められた。いわば仮免許のようなもの。1年半の短い治験期間で得られた効果はAβの減少のみで、「認知機能低下の抑制」の確認には至っていない。この不安定さについて米専門家からは「FDAはゴールを動かした」と批判する声もあがっている。FDAは、追加の臨床試験による効果検証をメーカーに指示。有効性が確認できない場合は承認取消の可能性もある。

 また、治験で効果が認められたのは軽度認知障害(MCI)や発症間もない軽症者というのもポイント。病気が進行した人に対しては効果が見られなかった。普及、適正な使用には認知症の早期発見・診断に向けた医療体制・地域づくりも課題となると考えられる。

 また、神経原線維変化が起こるのは認知症状の発症とほぼ同時期だが、老人斑、つまりAβの蓄積はその15~10年前より始まることが研究で分かっている(図)。その段階で投与すれば早期予防につながるが、この場合、認知症状がまだ出ていないため病気と診断されず、治療薬が使えないという問題がある。Aβの蓄積については、がん診断などに用いるPET検査で調べることは可能。

不透明な治療期間・費用

 日本でも米、EU(未承認)に続き申請、現在承認待ちとなっている。米では月1回の点滴投与で約50万円、年間600万円の負担になると言われている。仮に同等だとすれば3割負担で1回15万円、2割負担で10万円程度。これを何年間投与すればよいかについては現時点でデータがなく、財政面の見通しが難しい。薬価設定も今後の注目となる。

 認知症と家族の会(鈴木森夫代表)はFDAの承認を受け、翌6月8日にコメントと速報動画をアップ。鈴木代表は「根本治療を待ち望んでいた我々にとって大きな喜び。国内での早期承認を願う。アルツハイマー病かつ軽症者限定ではあるが、今後、認知症が進行している人たちへの医療の進歩のきっかけとなることにも期待したい」 と述べた。

(シルバー産業新聞2021年7月10日号)

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