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認知症の有病率低下 予防に向けた施策のさらなる強化を

認知症の有病率低下 予防に向けた施策のさらなる強化を

 わが国では高齢化に伴い認知症患者の数が急増している。一方で、今年取りまとめられた国の調査では、生活習慣の改善などにより、軽度認知障害(MCI)から認知症への症状の進行が緩やかになっている可能性が指摘された。新規治療薬の開発が進む中、エビデンスに基づくさらなる施策の推進が欠かせない。

 日本の総人口は、昨年10月1日時点で1億2435万人。そのうち65歳以上は3623万人で、高齢化率は29.1%に達した。1960年の高齢化率5.7%と比べると5倍以上に増加し、それに伴う認知症患者の増加が、医療・介護を含めた社会問題となっている。

 厚労省の調査によると、2012年時点での日本の認知症患者数は約462万人、65歳以上の認知症有病率は15%と推計され、25年には約600~700万人に達すると見込まれていた。

過去を下回る認知症の有病率

 しかし近年、世界的に認知症患者が増加する中、教育環境の整備や生活習慣の見直しなど、リスク要因への介入により、日本の将来的な認知症患者の増加率が他国と比べて比較的低いとの報告がなされた。これにより、認知症患者の数が国や自治体の施策によって影響を受ける可能性が示唆された。

 今年まとめられた国の老人保健健康増進等事業「認知症および軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」では、福岡県久山町、石川県中島町、愛媛県中山町、島根県海士町の4地域での調査結果を基に、22年の認知症有病率は12.3%と報告され、12年に厚労省が報告した認知症有病率15%を下回った。また、今回の軽度認知障害(MCI)の有病率は15.5%であった。

MCIから認知症への進展、減少か

 これらの有病率を基にした50年の日本の認知症者数は約587万人とされ、12年時点の推計値より約3~4割少ない結果となった。一方、今回の調査では、MCIと認知症を併せた有病率は27.8%(MCI15.5%+認知症12.3%)であり、12年時点推計の28.0%(MCI13.0%+認知症15.0%)と比較して大きな変化は見られなかった。この結果から、認知症患者の割合が減少した背景には、MCIから認知症へ進展する人が減少した可能性が指摘されている。

 その要因として、近年、健康に関する情報や教育の普及により健康意識が高まっていることが挙げられている。また、喫煙率の低下や治療法の進歩により、中高年期の糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が改善され、認知機能低下の進行が抑制された可能性も示唆されている。

新薬は価格・対象者の絞り込みが課題

 昨年12月にはエーザイと米企業が共同開発したアルツハイマー型認知症治療薬「レカネマブ(商品名:レケンビ)」が国内で発売され、今年9月には米製薬大手イーライリリーが開発したアルツハイマー病新薬「ドナネマブ(商品名:ケサンラ点滴静注液)」の国内での製造販売が承認された。いずれの薬剤もアルツハイマー病の原因とされる脳内に蓄積したアミロイドβタンパク質(Aβ)に結合する人工抗体で、脳内からAβを除去し、アルツハイマー病の進行を遅らせるとされる。

 現在承認されている2剤は、レカネマブの年間薬価が298万円で、国内販売に向けて薬価が議論されているドナネマブはアメリカでは年間3万2000ドル(約460万円)と高額だ。対象者もアルツハイマー病による軽度認知障害と軽度認知症の患者に限定され、投与できる施設も限られる。

 認知症治療への期待が高まる一方、投与基準の設定や高額な医療費、2剤の使い分けなどが課題となっている。

リスク因子への介入は道半ば

 19年に策定された認知症施策推進大綱では、団塊の世代が75歳以上となる25年までを対象とし、認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、「共生」と「予防」を両輪とした施策の推進が掲げられた。ここでの「予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味を持つ。

 その観点から、認知症発症を遅らせる可能性がある運動不足の改善、糖尿病や高血圧など生活習慣病の予防、社会参加による社会的孤立の解消に関するエビデンスの収集・普及、そして地域における「通いの場」での活動の推進に重点が置かれた。

 しかし、達成目標に掲げられた「通いの場への参加率8%」は、新型コロナウイルス流行の影響もあり、21年時点で4.8%にとどまり、「成人の週1回以上のスポーツ実施率70%」も昨年の時点で52.3%と道半ばにある。

エビデンスに基づく施策強化を

 今年施行された認知症基本法では、認知症の人が尊厳を保ち、希望をもって生活できる共生社会の実現を目指し、認知症に関する施策や基本方針が定められた。認知症予防も掲げられており、希望する者が科学的知見に基づく予防に取り組むことができるよう施策を行うとされている。

 認知症のリスク因子に関するエビデンスは集積されつつある。近年、喫煙や運動不足、難聴、教育期間の短さなどが発症のリスクに挙げられ、それらの因子を取り除くことでおよそ3割の発症が予防できるとの報告がされた。

 特に難聴は、中年期に介入することで約1割の発症予防につながるとされ、その効果は大きい。一方で、現在日本には約1400万人の難聴をもつ人がいるが、そのうち補聴器を使っている人は、およそ200万人に留まる。

 長年の認知症施策の効果は表れつつある。新しい治療薬への期待は高まるが、高額で適応が限られる現状では、発症予防と進行の抑制が欠かせない。介入の余地は大きく残されており、今後もさらなる施策の後押しが求められる。
(シルバー産業新聞2024年11月10日号)

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