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感染予防だけではない「オンライン」のメリット

感染予防だけではない「オンライン」のメリット

 新型コロナ感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言以降、リモートやICT活用のサービス提供が注目を集めている。

場所を問わず参加、負担軽減にも

 政府は5月25日、およそ7週間に渡った緊急事態宣言を解除した。今後、段階的な経済活動の再開を目指していく。一方で、基礎疾患を抱え重症化を招きやすい高齢者を支え、容易に「密」を避けられない介護現場では、なお最大限の感染予防策と緊張感をもって業務に当たっている。そうした中、一部ではオンラインを用いた会議や面会、研修の取り組みを始める事業者や団体も現れた。感染予防に止まらず、思いがけないメリットの発見もあるという。「ウィズコロナ」の時代に、新たな介護業務のあり方を模索する取り組みを紹介する。

オンラインでサ担会議

 やさしい手(東京都目黒区、香取幹社長)では、同社ケアマネジャー主催のサービス担当者会議をオンライン上で開催する取り組みを始めている。
 現在、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための臨時的な取り扱いとして、サービス担当者会議は「利用者の自宅以外での開催や電話・メールなどを活用するなどにより、柔軟に対応すること」が認められている。

 これを受けて、同社ではオンライン会議の推進を決めた。埼玉支社の根岸健太副支社長は、「文書での照会だと利用者から検討状況が見えにくく、電話でも1対1のやり取りになってしまう」とし、利用者が「置いてきぼり」になってしまう場合もあると指摘する。

 その点、オンラインであれば、お互いの顔を見ながら多人数で話し合いができる。同社が、さいたま市と東京都足立区に確認したところ、両保険者とも「オンラインでの開催で問題ない」との回答だった。

 やさしい手東大宮居宅介護支援事業所のケアマネジャーの大石和輝さんは、利用者・家族の同意を得て、実際にオンラインでのサービス担当者会議を開催。

 オンライン会議用のシステムは同社がすでに導入していたZoom(ズーム)を利用した。

 会議中は、大石さんが利用者の隣についてサポート。まず本人が、「入居して3カ月経つが、歩く自信がつき、先日も職員と駅まで散歩した」と近況を報告。

 多職種からは、「夜間に嘔吐があると相談を受けた。食事後はすぐに横になってしまうとのこと。1時間くらいはいすに座ってもらって、それでも症状が続くようなら、医師へ相談するよう勧めている」(訪問看護)といった報告や助言が寄せられた。

 会議後に感想を尋ねたところ、▽表情や反応もよくわかる。対面のように会議ができた▽移動の合間に参加できて効率的――など好評だった。

 「遠方に住む家族も参加しやすいなど、オンラインならではの強みもある。より実績を積めば、さらにメリットや課題がわかるはず。有用性が明らかになれば、こうした緊急時に限らずとも、オンライン会議が認められるように現場から声をあげていきたい」と根岸さんは話す。

LINEのビデオ通話でオンライン面会

 東京海上日動ベターライフサービス(東京都世田谷区、中村一彦社長)では、感染症対策の一環として、オンラインを活用した面会や研修に取り組んでいる。

 同社が運営する有料老人ホームでは、「毎日来ていた家族が来なくなってさみしい」「会えないことで、認知症が進み自分を忘れるのでは」といった入居者・家族の声に応え、LINE(ライン)のビデオ通話機能を使って、オンラインで面会できる体制を整えた。

 現在は入居者20人の家族が登録する。セキュリティやプライバシー保護の観点から、面会時のビデオ通話のみに使用し、メッセージのやり取りは行わない。また、その都度使用したタブレットの消毒を徹底。

 オンライン面会は1日に3回。あらかじめ実施日を決めておく。入居者が使用するタブレットは施設が用意し、職員がアプリを立ち上げ、居室でビデオ通話を行ってもらう(写真1)。

 「なるべく家族とご入居者様だけで会話できるように配慮している」と同社施設介護事業部部長の斎藤清志さんは話す。

 取締役執行役員兼ビレッジⅢ支配人の佐々木喜章さんは、「現在の課題は、施設の密を避け『新しい生活様式』に対応しながら、ストレスを最小限に利用者の普段の生活を維持するか。

 収束後もオンライン面会は、遠方の孫と会うなどアクティビティとして継続し、様々な遠隔でできることを検討している」と今後の展開を語る。

 また、同社の訪問介護・居宅介護支援事業所では、事業所のパソコンを活用したオンライン会議や、喀痰吸引のオンライン研修を実施している。

 喀痰吸引研修は新型コロナウイルス感染拡大を受け、オンラインでの実施が認められたことで同社でも開始した。

 オンライン研修参加者からは「手元がアップで見えるためわかりやすい」「勤務している事業所で研修を受けられるため移動の負担がない」など好評。

 同事業部の吉田早苗課長は「オンライン研修は、操作も簡単で、事業所との連携もスムーズ。参加者の負担も少ないので、今後は喀痰吸引以外の研修でも応用していきたい」と話す。

法定研修や独自研修もweb配信で

 東京海上日動ベターライフの社内研修の例もそうだが、集合研修をオンラインで実施することは、感染予防以外にも、参加しやすくなったり、受講負担が軽減されたりする点でメリットがある。

 沖縄県介護支援専門員協会では、昨年12月までに法定研修19回、独自研修14回を配信で行ってきた。沖縄県では、離島などに住む受講者の負担が特に大きく、参加機会に恵まれていないという課題があった。
 例えば、昨年行った実務研修は、那覇市の会場で実施されたが、講義中心の日程は名護市、宮古島市、石垣市に同時配信を行った(写真2)。

 サテライト会場でも、現地と同じように研修が受けられるよう、ビデオカメラや音響システムなどの導入が必要だが、受講者からは「移動や宿泊にかかる費用負担が減った」「参加する機会が増えた」との声が寄せられている。

 現在、新型コロナの影響で、全国的にケアマネジャーの法定研修などは延期を余儀なくされている。

 日本介護支援専門員協会は、感染予防や運営・受講者双方の負担軽減に繋がるとし、こうしたインターネットを用いたセミナー「ウェビナー」の法定研修などへの活用を都道府県や研修実施機関に呼び掛けている。

 高知県でも今年度、抱え上げない「ノーリフティングケア」に取り組む職場づくりを担う人材を育成するノーリフティングケア人材養成研修をオンラインで実施する。

 パソコンやスマートフォン、タブレットを用いて、自宅や勤務先から受講できる。

(シルバー産業新聞2020年6月10日号)

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