インタビュー・座談会

ケア前後の手指衛生徹底し、接触感染を断つ

ケア前後の手指衛生徹底し、接触感染を断つ

 7月以降、再び全国的に新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、介護・医療現場の集団感染(クラスター)は3~5月と比べかなり抑えられてきた。しかし、重症化しやすい高齢者が生活する介護現場は、常に感染リスクと隣り合わせ。平時からの標準予防策が欠かせない。日本看護協会認定の感染管理認定看護師・坂木晴世さん(西埼玉中央病院)に、手指衛生のポイントなど、介護施設における正しい感染対策の基本について聞いた。

 介護施設は医療機関と違い、利用者や職員の会話や接触などのコミュニケーションが自然と行われる生活の場です。そのぶん濃厚接触や「三密」の機会は増え、ひとたび感染者が中に入ると、クラスターが起こりやすい環境でもあります。
 慢性的な人手不足もクラスターの一因です。少し体調が悪いくらいだと休みづらい介護・医療現場も多いのではないでしょうか。しかし、新型コロナは発症2日前~発症1日目が最も保菌者のウイルス量が多くなります。人から人への感染時期は「発症前」が45%との研究結果もあり、無症状や軽症のときほど感染リスクが高くなっています。
 また、発症初期は症状が風邪と酷似しているため、初期段階で感染を判断するのは難しいのが現状です。高齢者の場合だと誤嚥性肺炎が原因で37度前後の微熱が続いている人もいます。ウイルスは「持ち込まない」ことが第一ですが、無症状の感染者がいるという前提で「広げない」ことが求められます。

手指消毒を行う4つのタイミング

 新型コロナは感染者の口から出て、他の人の目・鼻・口へ侵入するという感染経路を辿ります。具体的には、ウイルスを直接浴びる「飛沫感染」と、身体や物に付着したウイルスを触り、その手で自分の目・鼻・口を触る「接触感染」の2パターンです。まずは、この経路をシャットアウトすることを徹底しましょう。
 接触感染については、手指衛生を適切に行うことで、かなりの確率で予防が可能です。主な方法は石鹸+流水による手洗い、またはアルコール消毒です。石鹸は界面活性剤を含み、汚れとともにウイルスを洗い落とします。目安は15~30秒。特に人・物に触れる指先を重点的に洗うようにしましょう。
 アルコールは手指に吹きかけ、10秒程度もみこめばウイルスを殺すことができます。流水を必要としないので、ケアの動線上に設置、または職員それぞれが携帯すれば場所を選ばず使用できます。
 利用者へケアを行う際の、手指衛生が必要なタイミングは①利用者の手を握る、体位変換、リハビリ、体温測定など直接触れる前②点眼、吸引、食事・服薬介助など利用者の体内へのウイルス侵入のリスクがあるケアの直前③歯磨き、おむつ交換、インスリン注射など利用者の血液・体液から曝露する処置の直後④利用者に直接触れた後――です。例えば、利用者の居室で体位変換と口腔ケアを行う場合は、居室に入る時と、体位変換が終わり口腔ケアを行う前の2回行います。
 不必要に感染リスクを増大させないためには、むやみに自分の顔を触らないことも大切です。人は自分の顔を1時間で平均3.6回触るという調査も出ています。極端ですが、「手を肩より上に上げない」くらいの意識が必要かもしれません。

正対避け、防護具活用

 介護現場で飛沫感染しやすいのが食事介助、口腔ケア、吸引など利用者が口を開いている状態です。人の呼気は前に向かって拡散しますので、できるだけ利用者の正面ではなく隣や斜め前に位置をとって実施することを勧めます。念のためフェイスシールドやゴーグルを着用して行いましょう。
 今やマスクは必須アイテムですが、さまざまな形状が市場に流通しています。外からの飛沫を防ぐには、鼻の頭から顎までを広く覆い、隙間をつくらないタイプが最適です。会話や電話の際に、ついマスクを外してしまう場合がありますが、これはNGです。
 なお、日本には医療用マスクの性能規格基準がなく、医療現場ではアメリカのASTM(米国試験材料協会)が定める基準に則った製品が選ばれています。市販品で「サージカルマスク」との文言を目にすると思いますが、日本では表示に対する基準も罰則もありません。マスクの性能を特段保証するわけではないので要注意です。
 介護施設は医療機関に比べ個人防護具が潤沢ではありません。国の経済的な支援も必要でしょう。

ウイルスを減らす環境整備

 クラスター発生施設を何カ所か訪問したところ、共通していたのが、職員の休憩室が備品庫のようなバックヤードで狭く、窓が小さいという点です。
 感染予防に換気は重要です。窓を大きく開ける必要はありませんが、部屋の2カ所以上を常に開け、空気の循環をつくりましょう。ウイルスの密度が低くなれば、たとえ体内に侵入しても少量で感染に至りません。
 私が訪問したある介護施設では、職員がマスクやガウンなど個人防護具を何枚も着用していました。まるで感染者専用病棟です。目に見えないウイルスと、専門家がいないことへの恐怖が、こうした過剰な対策をさせたのだと思います。
 大切なのは、正しい知識をもとに、シンプルで「足し算しすぎない」感染対策です。

(シルバー産業新聞2020年9月10日号)

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