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大分県のノーリフティングケア実践(後編)

大分県のノーリフティングケア実践(後編)

 人力で抱え上げたり、無理に引きずったりしない介護「ノーリフティングケア」が注目を集めている。大分県では昨年度、普及啓発から実地研修までを支援する「大分県ノーリフティングケア普及促進事業」を実施。
新たに7施設での実践に結び付けた。同推進事業で指導役を務めた特別養護老人ホーム「Greenガーデン南大分」(大分市)の渡邉利章理事長は、「リフトは手間」という懐疑的な見方に対し「正しいケアの追求と逆行する考え方の理解」とし、全国に向けリフト活用の声をあげる。

「少人数で質の高い ケア」 効果も

 特別養護老人ホームGreenガーデン南大分(大分市)は、日本ノーリフト協会(保田淳子代表理事)の大分支部も務めるなど、県内でも先駆的にノーリフティングケアに取り組んできた。

 渡邉理事長は、前職で医療法人の事務長を務めるなど、業務効率や経営的感覚に長ける。2015年に社会福祉法人を立ち上げた後、介護施設での「労働環境の改善と質の高いケア」を目指すこととし、ノーリフティングケアは生産性向上の面でも有効と判断した。

 例えば、ベッドと車いすの移乗など日常的に行われるケアについて、従来の介助ではベテランと技能未熟な新人ではケアの質(レベル)に差があるが、ノーリフティングケアを正しく行えば、誰でも同じケアの質を保つことができると強調する。

 「自立支援・重度化防止が重視される中で、介護施設でも離床を促すことが求められる。ただ、離床回数増加は介助者の身体的負担にもなるため、介護リフト等の活用の流れは避けられない」と、アウトカム評価を重視する流れからも、ノーリフティングケアが趨勢と読む。

「1人入浴介助」 実践で効果証明

 一方で、ノーリフティングケアについて、施設全体で使いこなすまでの手間や、スリングシート着脱の手間などから、介護リフト活用を前提とすることに懐疑的な見方も根強い。これについて渡邉氏は「従来のケアと比較すると手間はかからない」ときっぱり。端的な効果例として入浴介助を挙げる。

 介護業務の中でも「入浴介助」は、身体的負担・精神的緊張を強いられるため、特に重労働とされる。実際に人力による入浴介助では転倒転落などの事故発生件数も多く、介護現場では2人以上で入浴介助することが多い。 しかし同施設では、脱衣場から浴槽まで続く天井走行リフトと浴室トロリーバスを活用することで、全介助の人を含むほとんどの入居者を「1人入浴介助」で行っている。

 渡邉氏は「4年間で移乗時の転倒転落やスキン – テア(皮膚裂傷)などの事故は1件もない」と安全性の高さや、「小柄な女性介護職でも、大柄な利用者に安全快適に入浴してもらえる」と太鼓判を押す。

 また、九州地域を中心に、全国各地に広がりつつある「こうしゅくゼロ」(人力による不適切な介助が原因の筋拘縮をなくす活動)の観点でも「一日一回以上リフトを使用することで、筋緊張の連続による拘縮は解消され、寝たきりを防ぐことができる」と、ADLやQOL維持向上も強調する
ノーリフティングに取り組むGreenガーデン南大分

ノーリフティングに取り組むGreenガーデン南大分

利用者も介護職員も 集まる介護施設に

 人材確保で思わぬ効果も見られた。全国的な介護人材不足の背景には、高校福祉介護科や養成校卒業の若者の激減に歯止めがかからないことがあるが、地元の高校の就職担当者から「リフト等を活用する環境の整った介護施設に卒業生を積極的に斡旋する」という方針が示され、今春に新人介護職が就職することになった。

介護ショップ奮戦  在宅に普及を

 介護リフトの導入を検討する施設に、試用や体験ができる体制も地元に揃っていた。「介護ショップあわや」(大分県竹田市、都築克宜社長)では、同社全店舗内(県内3カ所)に面移動リフトを使った体験ができる「ワンルームリフトケア」(斉場三十四=元・佐賀大学医学部教授が提唱)の普及を目指している。

 都築氏のノーリフティングケア普及にかける思いは「リハビリテーション病院や施設へ積極的提案し、導入を進めなければ、在宅での重度者介護は成り立たない」という信念に基づく。「Greenガーデン」関連施設にも、床走行リフト4台、スタンディングマシン2台、浴室トロリーバス2台、天井走行リフト2台などを導入した。

 「まずはノーリフティングケアを知ってもらい、介護リフトを使用した移乗介助を体験し、効果を理解いただくことが天井走行リフトの普及につながる」という思いから、大分県内の20施設に床走行リフト(8機種)のレンタルを実施。導入前後の研修活動も積極的に実施している。
各社の介護ベッドと各種リフトのコーナー

各社の介護ベッドと各種リフトのコーナー

大分県社協・普及促進 事業の司令塔として

 大分県社会福祉介護研修センター「福祉用具展示場」の存在も大きい。広々とした展示場に約1600点の福祉用具・機器が常設展示。介護ベッド展示スペースには、実際の使用環境に近い状態で、各社の多種多様なリフトが整然と展示されている。ノーリフティングケアの研修会などには、デモ機の貸出しも行う。介護リフトを試すため、ケアマネジャーとともに利用者や家族が来場したり、施設関係者が見学に来場したりすることも多い。

 同センターは、大分県ノーリフティングケア普及促進事業でも、実施のとりまとめを担当した。介護研修・総合相談部長の後藤敏男氏は「介護職員募集〝負担のない介護〟と呼び掛けたところ、50歳代以上の応募が増えた」「(力仕事の移動・移乗介助などでも)女性職員が女性利用者を介助することができるようになった」など、波及効果の大きさを力説する。(了)
大分県社会福祉介護研修センター 「福祉用具展示場」

大分県社会福祉介護研修センター 「福祉用具展示場」

(シルバー産業新聞2019年5月10日号)

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