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大分県のノーリフティングケア実践(前編)

大分県のノーリフティングケア実践(前編)

 大分県は18年度事業としてノーリフティングケアを普及促進させる「大分県ノーリフティングケア普及促進事業」に取組み、3月末までの短期間で、新規7施設を合わせた県内11施設が抱え上げない介護に取り組むという成果を挙げた。同事業成功の背景には「県の強い意思」「先駆的施設の存在」「機器設営や貸出しに前向きな福祉用具事業者の存在」「県社協の福祉用具常設展示場の充実」などの好条件があった。

ノーリフティングケア施設を 「点から面」 へ

 「実際に体験してみると、抱え上げない介護が利用者にも安心安全、快適であることが分かった」と大分県福祉保健部高齢者福祉課・伊東雅人課長。介護者の腰痛予防や生産性向上に有効であることは認識していたが、事業開始前にノーリフティングケアで最先端の高知県を視察し、利用者にも快適であることを県幹部が実感したことは重要だった。

 事業の前提として、大分県内には先行してノーリフティングケアに取り組む介護施設が4施設あり(以下「推進施設」)、実習受け入れや、講師派遣などの協力を取り付けることができたことも恵まれていた。そもそも介護職の負担軽減や腰痛予防の取組は全国的な喫緊の課題で、厚生労働省「人材確保等支援助成金」ではリフト導入費用の補助が受けられる。県では、その動機付けや啓発活動、講師派遣や実践施設での研修など「点から面への広がり」の仕組みを独自に支援することにした。

 事業は①施設経営幹部を対象にしたマネジメント研修②取り組み検討の意向を示した施設の現場リーダーなどを対象に、持ち上げない介護を実践する県内4施設での実地研修③自らの施設で介護職員対象の実地研修――の3ステップで構成され、組織上部から現場への浸透を一貫して支援する。

大分県福祉保健部高齢者福祉課・伊東雅人課長

施設から想定上回る反響

 マネジメント研修は18年7月に実施。高知県のノーリフティングケアの中心人物の下元佳子氏(ナチュラルハートフルケアネットワーク代表理事)が講師を務め、「ノーリフティングケアは、利用者も職員も大切にするケア」などと参加者に語り掛けた。研修には想定を上回る130人の施設経営者が参加。うち30施設が、先行実践する推進施設に現場リーダーを派遣して実地研修を受けることを希望した。

 4つの推進施設の内訳は高齢者施設2施設、障がい者施設2施設で、実地研修(3時間程度)は8月~10月にかけて6回開催。希望する施設に現場リーダー格を派遣し、実地研修を受ける。その後、11月~3月にかけて自らの施設に推進施設の指導員を迎え、全4回にわたり施設に合った機器導入・活用の指導を受ける。結果、7施設がノーリフティングケア新規取組施設となった。

 県事業の事務局的立場を務めた大分県社会福祉介護研修センター担当者は「推進施設の指導者に最大限協力してもらったが、指導者が足りないほどの研修依頼があった。潜在的には、今回の7施設以上の施設がノーリフティングケアに関心を寄せている」と大きな手ごたえを話す。

大分からリフト活用の「誤解」の解消めざす

 大分県の取組は成功事例となったが、全国的には大きなムーブメントにはつながっていない。介護現場の腰痛予防や生産性向上の観点で、リフト活用の機運が全国的に高まっているが「かえって介助時間が増える」「シートの着脱が手間」など、生産性向上効果への懐疑的な見方が介護現場に根強い。

 これに対して、同事業の推進施設の一つ「特別養護老人ホームGreenガーデン南大分」(大分市)の渡邉利章理事長は「まったくの誤解。正しく使えるようになれば、たとえば重労働である入浴介助が完全に1人でできるようになる」と力説する。同施設は日本ノーリフト協会大分支部でもあり、渡邉氏はその支部長。

 あまり馴染みのないリフトに触れたり、体験できることも重要で、大分県社会福祉介護研修センター福祉用具展示場では各社リフト機器常設展示がされていた。地元福祉用具事業者「あわや」(大分市、都築克宜社長)が取組んでいる提案・課題解決型の対応も、誤解の解消に貢献している。

特別養護老人ホームGreenガーデン南大分・渡邉利章理事長

(シルバー産業新聞2019年4月10日号)

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