現場最前線の今
現場最前線の今223 強度行動障害のある方の地域生活支援⑧
重度の知的障害・自閉症の人たちで強度行動障害の状態にある方とその家族を公的に支援することは、社会的に喫緊の課題だ。しかし、これまでその受け皿になっていた入所施設は停滞・縮小傾向にあり、「措置から契約へ」「施設から地域へ」の理念を実現するために、グループホームを始めとした地域生活支援のシステム構築は過渡的な状況にある。
どんなに重度の障害があっても地域で自分らしく暮らせる社会を目指す。確かにその通りだし、そうなりたいと誰もが願っている。しかし現状は、強度行動障害状態の人は一向に減らないし、統計上は毎年のように増えている(2024年10月時点でのべ12万人以上)。実際、誰がどこで彼らを支えるのか、どのように支えるか、それをどうやって維持していくのか──という問いに、私たちの社会は十分に答えられていない。
本来は、幼児・学齢期から強度行動障害の状態にならないよう予防的、そしてより専門的な療育・支援の取り組みがまずは求められる。つまり、家庭と療育機関・支援学校等が連携し、当事者が穏やかに過ごせる環境と手立てを、個別の実情に合わせて用意する必要がある。しかしながら、今現在も、毎年、強度行動障害の状態の生徒が、全国各地の支援学校を卒業していくのである。
筆者は支援学校での対応がうまくできず、強度行動障害の状態で不登校(実態は在宅生活するしかない状況)や途中退学に至った当事者を多く見てきた。
ある事例では、支援学校のスクールバスの中で何度か暴れた高等部在籍の当事者・家族に対し、「学校に来てくれるな」と直接伝えにきた校長先生を知っている。その校長から「スクールバスは業者に委託しているので、学校が対応する範囲ではない」と言われたと、ご家族は嘆いていた。結局、その方は学校への登校をあきらめてしまった。
強度行動障害に対して、幼児・学齢期から有効な予防策を講じなければならないが、なんと最近になるまで「強度行動障害」は学校現場では認識されなかった。文科省が全国レベルで支援学校での強度行動障害の実態調査を実施したのは昨年2024年のことで、ようやく「強度行動障害を有する児童生徒への支援の充実について(周知)」を各教育委員会に事務連絡したところである。
その調査結果をみると、「行動上の問題によって、一日のうちの一部の時間もしくはすべての時間などのように、継続的に別室での個別対応が必要な児童生徒の在籍数」は、全国507校の知的障害特別支援学校小学部から高等部の児童生徒のうち、2.8%(2279人)にのぼる。つまり、単純に学年単位で計算すると、毎年200人弱の強度行動障害の状態の卒業生が送り出されていくことが予想できる。
この調査では、学校現場における教師の認識と研修実態についても興味深い結果となった。
例えば「強度行動障害が生じる要因に関して、障害の特性と環境との相互作用から強度行動障害が生じることについて、どの程度の教員が理解しているか」という設問に対して、約3割の学校が「どちらかといえば、理解していない教員の方が多い」「理解していない教員がほとんどである」と答えた。
また、最近2年間における「強度行動障害に関する校内研修の実施状況」では、約7割の学校が「実施していない」と回答している。最も重度の状態にある児童生徒に対しても、「知能検査や発達検査の活用」「機能的アセスメント(ABC記録)やMASの活用」といった客観的・科学的なアセスメントの実施は半数以下にとどまり、ほとんどが教員による「行動観察」や「保護者からの情報提供」で対応している。
強度行動障害への対応(予防)は、少なくとも特別支援学校において早急に整備すべき課題ではないか。文科省および学校現場の真摯な取り組みを期待する。
(シルバー産業新聞2025年11月10日号)
本来は、幼児・学齢期から強度行動障害の状態にならないよう予防的、そしてより専門的な療育・支援の取り組みがまずは求められる。つまり、家庭と療育機関・支援学校等が連携し、当事者が穏やかに過ごせる環境と手立てを、個別の実情に合わせて用意する必要がある。しかしながら、今現在も、毎年、強度行動障害の状態の生徒が、全国各地の支援学校を卒業していくのである。
筆者は支援学校での対応がうまくできず、強度行動障害の状態で不登校(実態は在宅生活するしかない状況)や途中退学に至った当事者を多く見てきた。
ある事例では、支援学校のスクールバスの中で何度か暴れた高等部在籍の当事者・家族に対し、「学校に来てくれるな」と直接伝えにきた校長先生を知っている。その校長から「スクールバスは業者に委託しているので、学校が対応する範囲ではない」と言われたと、ご家族は嘆いていた。結局、その方は学校への登校をあきらめてしまった。
強度行動障害に対して、幼児・学齢期から有効な予防策を講じなければならないが、なんと最近になるまで「強度行動障害」は学校現場では認識されなかった。文科省が全国レベルで支援学校での強度行動障害の実態調査を実施したのは昨年2024年のことで、ようやく「強度行動障害を有する児童生徒への支援の充実について(周知)」を各教育委員会に事務連絡したところである。
その調査結果をみると、「行動上の問題によって、一日のうちの一部の時間もしくはすべての時間などのように、継続的に別室での個別対応が必要な児童生徒の在籍数」は、全国507校の知的障害特別支援学校小学部から高等部の児童生徒のうち、2.8%(2279人)にのぼる。つまり、単純に学年単位で計算すると、毎年200人弱の強度行動障害の状態の卒業生が送り出されていくことが予想できる。
この調査では、学校現場における教師の認識と研修実態についても興味深い結果となった。
例えば「強度行動障害が生じる要因に関して、障害の特性と環境との相互作用から強度行動障害が生じることについて、どの程度の教員が理解しているか」という設問に対して、約3割の学校が「どちらかといえば、理解していない教員の方が多い」「理解していない教員がほとんどである」と答えた。
また、最近2年間における「強度行動障害に関する校内研修の実施状況」では、約7割の学校が「実施していない」と回答している。最も重度の状態にある児童生徒に対しても、「知能検査や発達検査の活用」「機能的アセスメント(ABC記録)やMASの活用」といった客観的・科学的なアセスメントの実施は半数以下にとどまり、ほとんどが教員による「行動観察」や「保護者からの情報提供」で対応している。
強度行動障害への対応(予防)は、少なくとも特別支援学校において早急に整備すべき課題ではないか。文科省および学校現場の真摯な取り組みを期待する。
(シルバー産業新聞2025年11月10日号)



