インタビュー・座談会

「介護の日」によせて 上野千鶴子さん (1)

「介護の日」によせて 上野千鶴子さん (1)

 ジェンダー研究の第一人者として知られる社会学者の上野千鶴子さん。著書「おひとりさまの老後」は75万部を超すベストセラーとなり、高齢単身女性のイメージを否定的なものから肯定的なものに変え、日本中におひとりさまブームを巻き起こしました。その後も、医療・介護現場の取材を精力的に重ね、一人暮らしの知識やノウハウを蓄積してきた上野さんに、「おひとりさま」で最期まで暮らし続けるコツなどを伺いました。

 座談会の内容を三部に分けて掲載します。
 ■(1)「おひとりさま」の準備/介護から看取りまで (本ページ)
 ■(2)地域の資源/看取りの費用 (リンク先)  
 ■(3)介護保険の社会インフラ (リンク先)

「おひとりさま」 で暮らすための準備を

 ――2007年に出版された著書『おひとりさまの老後』がベストセラーとなりました。
 「高齢者になると、お一人ではおさみしいでしょう」という言葉に対して、「大きなお世話です」と言うために書いた本が、たくさんの人から支持されました。
 当時は人口学的少数派だった非婚の単身女性、いわゆる「負け犬おひとりさま」向けに書いたのですが、その後、離別・死別を含めておひとりさまの数は急激に増えました。
 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、東京オリンピックが開催される2020年には、世帯主が65歳以上の単身世帯は33.3%と、3世帯に1世帯の割合となる計算です。これに夫婦のみ世帯の32.5%を加えると、合計で65.8%となりますが、夫婦世帯は死別すれば単身世帯予備軍ですので、おひとりさまは今後、ますます増えていくでしょう。
 こうした変化が起きることは予測していましたが、そのスピードは私の予測をはるかに超えていました。人口学的少数派のための本が、あっという間に多数派のものになってしまったという感覚です。これからの時代は結婚した人も、結婚しなかった人も、女性は長生きすればみんな最後はおひとりさまになると覚悟しておいたほうがよいでしょう。
 ――おひとりさまが当たり前となる時代で、自宅で最期まで暮らすための本も書かれています。
 「自宅で最期を迎えたい」と考える高齢者はおよそ8割います。ですが、実際に自宅で亡くなる方は13%にとどまっています(グラフ)。その一番の理由は家族への配慮です。心では「自宅で最期を迎えたい」と思っていても、「家族に負担をかけたくない」との思いや、離れて住んでいる家族が「一人で置いておけないから」との思いで、多くの人が病院や施設を選ばされているのです。
 では、自宅で最期までいられないかと言えば、そんなことはありません。2000年に介護保険ができたことで、おひとりさまでも大丈夫と言えるほど、介護サービスのインフラが整ってきました。今では24時間ヘルパーや看護師が家に来てくれる「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」(以下、定期巡回)と呼ばれるサービスまであります。
 また、14年6月18日に国会で医療・介護一括法が成立し、長期入院を抑制するなど、政府としても在宅誘導へとはっきりと舵を切りました。「ほぼ在宅、ときどき入院」と呼ばれる状態を、政府としては目指しています。
 こうした時代の中で、「自宅で看取りまで」を希望する場合は、何よりも「本人の強い意思」が必要になります。

(介護の日しんぶん2018年11月11日)

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