インタビュー

「介護の日」によせて 上野千鶴子さん (3)

「介護の日」によせて 上野千鶴子さん (3)

 ベストセラーとなった「おひとりさまの老後」に続き、「おひとりさまの最期」を出版された上野千鶴子さんから「介護保険」の意義と今後の課題を教わりました。

介護保険ができたことで社会インフラが整った

 ――本人の強い意思と地域の資源があれば、制度的にはおひとりさまでも公的保険の枠内で「自宅で最期まで」が可能なのですね。
 その通りですが、もう一つ大事なものがあります。わたしが「司令塔」と呼ぶ、専門家チームを束ねて意思決定を行うキーパーソンの存在です。  本人が直接、専門職に対して意思決定を行えればよいのですが、多くの場合は、その司令塔役を家族が担っています。
 司令塔役は、介護保険制度の使い方に長けた制度リテラシーの高い人が理想なのですが、いまの介護保険は制度改正を重ね、プロでも持て余してしまう程に複雑になっています。ですので、家族が司令塔役を担うのには限界があります。一般的には、ケアマネジャーがその役割を担っている場合が多いのですが、本人と家族の利害が対立した場合に、どちらのニーズを優先したら良いのか、ジレンマを抱えながら仕事をしているケアマネジャーも少なくはありません。
 さらに在宅で看取りまで行う場合は、終末期医療の話が関わってくるため、医療に精通した人でないと十分な役割を果たすことができません。おひとりさまが安心して最期まで暮らせるようにするには、本人の意思決定を尊重し、誰に対してもきちんとものが言える司令塔役の育成が課題です。
 ――地域の資源がなかったり、キーパーソンがいない地域もあるのではないでしょうか。
 確かに地域に医療・看護・介護資源があるかどうかや、司令塔となるキーパーソンがいるかどうかについては、地域格差が存在します。どこに住むかによって、「自宅で最期まで」いけるかどうかの選択肢は変わってきます。
 私のようなおひとりさまだと、地域資源が充実している地域に引っ越せば済みますが、家族がいる人はそうはいきません。そうなると、自分の住んでいる地域に、医療・看護・介護の資源をつくりだすほかありません。そこは自治体の姿勢がとても大事です。
 例えば、長野県の佐久総合病院では地域ケア科というのがあって、病院の勤務医がフットワーク良く往診に来てくれる仕組みがあります。また、新潟県長岡市にある高齢者総合ケアセンター「こぶし園」では、在宅サービスや配食サービスの拠点となる「サポートセンター」を市内に設置し、施設に入所している人を地域に戻す取り組みを行っています。
 こうした思いを持った医療法人や社会福祉法人、株式会社などを、自治体が呼び込んだりバックアップしたりすればいいのです。それによって、地域があっという間に変わることだってあるのです。
 ――住み慣れた家や地域で最期まで暮らし続けられるよう、全国の自治体で「地域包括ケア」の実現にむけたシステムづくりが行われています。より良いものにしていくには、住民が主体的に関わっていく姿勢が大事ですね。本日はどうもありがとうございました。(了)

書影:『おひとりさまの最期』 上野千鶴子著

 ベストセラー『おひとりさまの老後』から8 年。おひとりさまはどのように住み慣れた家で「在宅死」ができるのか? ひとりで死んでも「孤独死」とは呼ばれたくない。当事者の切実な問いをたずさえ、医療・介護・看護の現場で疑問をなげかけながら、体当たりの取材を積み重ね、ノウハウをまとめた一冊。「在宅ひとり死」を可能にする現実的な必要条件を多方面に取材し、研究した超高齢社会の必読書。 

 定価:1,512円(税込)
 体裁:四六判280頁
 朝日新聞出版 ☎03-5540-7793

社会学者 上野千鶴子さん

(うえの・ちづこ)1948年富山県生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。認定NPO 法人ウィメンズアクショネットワーク(WAN)理事長。日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニア。近年、介護とケアの分に研究領域を拡大している。主な著書に「おひとりさまの老後」(法研)、「男おひとりさま道」(法研)、「おひとりさまの最期」(朝日新聞出版)「上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?」(朝日新聞出版)など多数。

(介護の日しんぶん2018年11月11日)

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