インタビュー・座談会

災害関連死を防ぐTKB③B・ベッド編 避難所での福祉用具活用の視点

災害関連死を防ぐTKB③B・ベッド編 避難所での福祉用具活用の視点

 避難所での雑魚寝は寝心地が悪いのはもちろん、底冷えやほこりの吸い込みによる健康被害のリスクが高まるため、折りたたみベッドや段ボールベッドなど早期の就寝環境の整備が重要となる。また、高齢者の場合は、転倒を防ぐ環境づくりも重要となる。能登半島地震で災害対応に携わった、日本災害リハビリテーション支援協会(JRAT)の福祉用具委員会の西村一志委員長に話を聞いた。

 能登半島地震では二次避難所への避難を希望する人の中で、ホテルや旅館での生活に不安のある人に1~2日滞在してもらい、医師、保健師、看護師、リハ専門職等が評価および支援を行うための避難所として「1.5次避難所」が初めて運用されました。ここへの避難者の中には、要介護状態の方が含まれていました。我々JRATは1.5次避難所でリハビリテーショントリアージ・環境アセスメント等を行いました。

 テント(個室)内には段ボールベッドが設置されていましたが、段ボールベッドは硬くて痛くて眠れない、あるいは、長期間の避難生活により床ずれが発生するリスクが高くなることへの対応として、福祉用具貸与でも活用されているマットレスも導入されていました。

 しかし、「段ボールベッドよりもマットレスが大きく、端座位になった時に落下の危険性がある」「段ボールベッドの上に直接設置するとマットレスが滑りやすい」「段ボールベッドが分離し、間に落ち込んでしまう危険がある」などの課題が見えてきました。

 そこで▽段ボールベッドとマットレスのサイズを合わせる▽段ボールベッドとマットレスの間に滑り止めシートを設置▽段ボールベッドをガムテープで固定――などの工夫を提案し行いました。

 据え置き型手すりは最も利用が多く、起き上がり用手すりとしてベッドの横に設置したほか、トイレまでの動線などにも設置し、より多くの人が安全に活動できる環境を整えました。

災害時でも「生活の質」を意識した空間づくり

 ICF(生活機能分類)を用いて説明します。普段は「健康状態」が原因で心身機能や活動・参加に影響することが多いです。しかし、災害時には「環境因子」が原因となり生活機能が低下します。住み慣れた地域ではなく、かつ自宅ではない場所での生活は被災者の身体や精神、生活リズムに大きく影響します。

 避難所での生活が長期化する中で、廃用症候群や認知機能の低下を防ぐためには、「活動意欲が高まる環境づくり」が欠かせません。

 1.5次避難所ではアクティビティスペースや食堂・居間スペースを設け、「寝食分離」に取り組みました。災害時でも「ご飯を食べる」という自然な行動が活動を引き出す一つの鍵になります。「運動しましょう」だけではなく、「ご飯を食べに行きましょう」が第一歩となることもあります。食堂スペースで食事することで1日3回の移動が自然な運動となり、生活リズムを整えることにもつながります。

 このほか、歩行の不安定な避難者への介護シューズも県に依頼しました。みなさん外履きで避難してきたため、屋内用シューズがありませんでした。避難所で準備されたのはスリッパだったため、高齢者にとっては転倒リスクがかなり高かったです。

災害時の福祉用具調達マニュアル

 JRATは2022年に「災害時福祉用具等調達支援マニュアル」を策定しました。災害時は「いつ・だれが・どこに・だれに・どんな福祉用具を届けるか・届けたか」の情報が錯そうするため調達支援が難しいです。熊本地震では調達した福祉用具の費用弁済が大きな課題となりました。

 そこで、マニュアルでは▽介護保険等の制度利用による調達支援▽団体などとの個別協定による調達支援▽国の物資調達・輸送調整等支援システムによる調達支援▽義肢装具の調達支援――の4つのパターンについて、物資や費用の流れ、キーパーソンとなる専門職についてまとめています。

 能登半島地震では1.5次避難所に要介護認定を受けていない避難者も多く、また、認定には2週間程かかることから、個別協定(日本福祉用具供給協会が自治体と締結している災害協定)の仕組みで支援しました。

 災害時には要配慮者(高齢者、障がい児・者など)が安全に生活し、活動量を維持するために必要な支援を最優先に考え、多職種や行政と連携した取組みが欠かせません。そのためにも、平時から関連する団体などと緊急時対応について話し合うことが大切です。
(シルバー産業新聞2025年6月10日号)

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