インタビュー・座談会

災害関連死を防ぐTKB②K・キッチン編 発災4日目以降の栄養バランスに注意

災害関連死を防ぐTKB②K・キッチン編 発災4日目以降の栄養バランスに注意

 地震や津波、台風などの自然災害が発生すると、食の供給体制が一時的に崩れ、避難生活を送る人々は過酷な環境に置かれる。特に高齢者、要介護者は、栄養不足や栄養の偏りが原因で活動量の低下や褥瘡リスクを招くなど、短期間でもADL、QOLに直結しやすい。2011年の東日本大震災で、石巻市の避難所等で栄養支援活動を行った名寄市立大学教授・中村育子氏に、避難所や高齢者施設での栄養支援、平時からの準備に関して解説いただく。

 日本栄養士会には、災害発生時に栄養に関する支援活動を行う「JDA―DAT」があります。2011年の東日本大震災を機に発足しました。ここでは、フェーズに応じた食支援活動が重要視されています。

 例えば、発災72時間以内は高エネルギー食の補給を最優先に行います。この間はライフラインが寸断され、外部支援も入らないことを前提にした食料備蓄が必要となります。BCP策定が義務化された介護施設では準備が進んでいますが、自宅ではケアマネジャーや介護サービス事業所、また地域包括支援センターなどが協力し、本人・家族へ準備を促す、あるいは自事業所で保管するなどの対応が求められます。

 あわせて、気を付けなければならないのが脱水予防です。避難所でトイレ環境が悪い(遠い、段差がある、汚い、座りにくいなど)と、なるべくトイレに行かないよう水分を控える高齢者が多くいます。尿路感染や便秘の原因にもなり、そこから活動量が減少すれば床ずれが発生し、栄養状態の悪化を助長させる悪循環に陥ります。

 このように、適切な水分補給を促すには安心・安全なトイレ環境の整備も不可欠です。支援側としてはリハビリや住環境の専門職と連携しなくてはなりません。

 なお、栄養状態のスクリーニングについては、体重が分かるに越したことはありませんが、支給されたパンやおにぎりを残している、皮膚が乾燥している場合などは低栄養のサインです。

量から質への切替え

 4日目以降も高エネルギーに偏った食事を続けると、今度はビタミンやたんぱく質不足による慢性疲労や体調不良、便秘などの症状が出やすくなります。

 このタイミングで、もし炊き出しなど外部の支援が入れば、野菜や果物を食べる機会も得やすくなり、ひと安心です。あとは牛乳や卵が食べられているかが、見るポイントの一つです。

 東日本大震災は被害が極めて広域だったこともあり、食料支援の質・量ともに、避難所間でかなり差が出てしまいました。私が現地入りした石巻市の避難所はインフラが比較的早く整いましたが、4日目以降も十分な支援が受けられない避難所も多かったそうです。

 外部支援が入らない場合のたんぱく質やビタミン補給として、缶詰やレトルト食品は有効です。缶詰は魚類やフルーツ、レトルトは肉・魚・野菜がバランスよく入った主菜が選べます。ポイントは、ローリングストックとして使用し、口に合う商品を見つけておくことです。

2011 年石巻市の避難所にて。(左)各方面、企業から届けられた支援物資が山積みに。必要なものを探すだけでひと苦労(右)現地派遣された管理栄養士等による嚥下調整食の提供

嚥下対応にUDF活用

 どのフェーズでも一貫して支援しなければならないのが、要食配慮者への対応です。具体的には乳幼児のミルク、アレルギー食、そして嚥下困難者です。

 嚥下困難者に関しては、先述のレトルト食品でユニバーサルデザインフード(UDF)に登録されている商品も多数あり、「舌でつぶせる」「歯ぐきでつぶせる」などの表示でやわらかさのレベルを分けています。水分補給では、あらかじめとろみが付いた飲料も備蓄に便利です。

 その他、ご飯(おにぎり)は湯や水でやわらかく、パンは牛乳や湯に浸してパサつきをなくすなど、即席の嚥下食も覚えておくとよいでしょう。フリーズドライ食品のお粥も便利です。 なお、避難所の高齢者で発災後、急に普通の食事が食べられなくなった理由の一つに、義歯を自宅に忘れてきたケースがあります。認知症だと本人すら気づかず、訴えがないことも多いので、口の中のチェックも忘れてはなりません。

 被災地で感じたことは、専門職としてのアセスメント(人的支援)や炊き出し、嚥下食の調整(物的支援)と同等に、精神的なケアが欠かせないということです。特に栄養、つまり食べることは気持ちの状態が大きく影響を及ぼします。

 私の場合、普段の在宅支援と同じように、シンプルに「何が食べたい?」と聞いて回りました。石巻では「ホヤの酢の物が食べたい」と言う高齢者が多くいました。県の郷土料理です。被災で色々なものを失い、生きる気力が低下しても、好物の話で笑顔を取り戻せた人もいました。食べる力を引き出すにはまず、生きる力を引き出すことが重要だと痛感しました。   

 関連し、もう一つはその土地の食文化を知っておくことです。被災者にとって、なじみのある郷土料理や家庭の味は、嗜好が合う以外に、心の安定や生きる意欲につながります。決して、支援側の一方的な配布にならないようにしましょう。
(シルバー産業新聞2025年5月10日号)

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