インタビュー・座談会
可能性拡げる福祉用具 花岡伸和/西野雅信/長倉寿子(2)
当時から「車いすは行きたいところへ連れていってくれる道具だった」と強調する花岡さん。福祉用具を活用しながら、日常生活をひとつひとつ取り戻すプロセスが、アスリート・花岡伸和を形作ってきたという。
日常生活をひとつずつ取り戻す
花岡 車いすに限らず、福祉用具は「仕方なく使う」というより、「これを使えば、あんなことができるようになるかも」という気持ちで使っていました。
実はリハビリ病棟に移った時に、歩いてみたくて下肢装具を試してみたこともあるんです。周囲から「歩くのは無理だよ」といわれていて、それでも歩行器を併用したら少しは歩けたのですが、退院したら使わなくなりましたね。立つと目線も高くなって、気持ちよかったけれど、無理して歩くことより、車いすで行きたいところへ行けることのほうが、僕にとっては価値あることでした。
長倉 一般的には「歩ける」「歩けない」など、身体的な機能に意識が向きがちです。でも、花岡さんの場合は自分が目指す「生活」がまずあって、それに向けた手段を自身で選んでいるのが素晴らしいと思います。
実はリハビリ病棟に移った時に、歩いてみたくて下肢装具を試してみたこともあるんです。周囲から「歩くのは無理だよ」といわれていて、それでも歩行器を併用したら少しは歩けたのですが、退院したら使わなくなりましたね。立つと目線も高くなって、気持ちよかったけれど、無理して歩くことより、車いすで行きたいところへ行けることのほうが、僕にとっては価値あることでした。
長倉 一般的には「歩ける」「歩けない」など、身体的な機能に意識が向きがちです。でも、花岡さんの場合は自分が目指す「生活」がまずあって、それに向けた手段を自身で選んでいるのが素晴らしいと思います。
花岡 ウェイン・レイニーという自分にとっての「お手本」がいたこともそうですが、「日常を取り戻す感覚」が大きな原動力になっていたと思います。
入院中の忘れられないエピソードがあって、点滴ではなくようやく口から食べられるようになった頃のことです。最初は看護師さんが食べさせてくれていたのですが、僕にはそれが耐えられなくて、自分で挑戦してみたらぎこちないけれど、なんとか食べられたんです。自分で食べたほうがやっぱり美味しかったし、何より「できた!」という思いが自分の中でとても大きくて、事故にあってから初めて日常を一つ取り戻せた感覚を持てました。
大げさに聞こえるかもしれませんが、自分でスプーンを持ったあの原体験が「車いすに乗ること」「スポーツを始めること」「パラリンピック出場」など、全てに繋がってきたと思っています。
入院中の忘れられないエピソードがあって、点滴ではなくようやく口から食べられるようになった頃のことです。最初は看護師さんが食べさせてくれていたのですが、僕にはそれが耐えられなくて、自分で挑戦してみたらぎこちないけれど、なんとか食べられたんです。自分で食べたほうがやっぱり美味しかったし、何より「できた!」という思いが自分の中でとても大きくて、事故にあってから初めて日常を一つ取り戻せた感覚を持てました。
大げさに聞こえるかもしれませんが、自分でスプーンを持ったあの原体験が「車いすに乗ること」「スポーツを始めること」「パラリンピック出場」など、全てに繋がってきたと思っています。
家族も支える福祉用具
西野 「自分で食べられた」という経験が、花岡さんのバイタリティの源泉だったのですね。人の行動や意欲を引き出すのは、本人が可能性や希望に気づいた時です。そうした意味で、小さな成功体験を重ねることはとても大切です。
花岡さん自身は非常に意欲的ですが、当時のご家族はどのような反応だったのでしょうか?
花岡 後になって聞いた話ですが、家族は僕をどう支えればいいかわからずにとても当惑していたようです。もちろん身の回りのサポートは家族がしてくれていましたが、そうしたことではなく、「どう接したらいいのかがわからなかった」と。僕自身は何も変わっていないつもりでいましたし、入院中も退院後も、生活の基盤を支えてくれていたのは間違いなく家族でしたので、後からそう打ち明けられたときは少し驚きましたね。ただ、僕が色々なチャレンジをする姿には、「助けられていた」とも言ってくれました。
長倉 本人だけでなく、家族もまた精神的シッョクから、不安やご本人への接し方で悩まれる方もいます。
花岡さん自身は非常に意欲的ですが、当時のご家族はどのような反応だったのでしょうか?
花岡 後になって聞いた話ですが、家族は僕をどう支えればいいかわからずにとても当惑していたようです。もちろん身の回りのサポートは家族がしてくれていましたが、そうしたことではなく、「どう接したらいいのかがわからなかった」と。僕自身は何も変わっていないつもりでいましたし、入院中も退院後も、生活の基盤を支えてくれていたのは間違いなく家族でしたので、後からそう打ち明けられたときは少し驚きましたね。ただ、僕が色々なチャレンジをする姿には、「助けられていた」とも言ってくれました。
長倉 本人だけでなく、家族もまた精神的シッョクから、不安やご本人への接し方で悩まれる方もいます。
西野 私もこれまでに、ご家族からの相談にはたくさん対応してきましたが、義理の母に介護が必要になってから、専門職としての気持ちと、家族の気持ちとではまた違うなと実感しました。距離が近い家族だからこそ、受け止められない、受け止めたくないことがやはりあります。すぐには受け止められなくても、時間をかけて、受け止められた時に、家族としても次のステップへ向かえるのではと思います。
さきほど長倉さんが、福祉用具の役割の一つが利用者の自立支援と話されましたが、もう一つが介護の負担軽減です。介護者が無理をして体調を崩しては元も子もありません。福祉用具などを使い、負担を減らすことで、身体的にも精神的にも余裕が生まれます。家族に余裕がなければ、どうしても悪い方へ向かいがちです。福祉用具に限りませんが、使えるものは上手に使って、余裕を持つことは非常に大事なことといえます。
長倉 本当にそう思います。自分たちで使う福祉用具を相談しながら選ぶプロセスも、家族の良いコミュニケーションになるのではと今のお話を聞いて感じました。
さきほど長倉さんが、福祉用具の役割の一つが利用者の自立支援と話されましたが、もう一つが介護の負担軽減です。介護者が無理をして体調を崩しては元も子もありません。福祉用具などを使い、負担を減らすことで、身体的にも精神的にも余裕が生まれます。家族に余裕がなければ、どうしても悪い方へ向かいがちです。福祉用具に限りませんが、使えるものは上手に使って、余裕を持つことは非常に大事なことといえます。
長倉 本当にそう思います。自分たちで使う福祉用具を相談しながら選ぶプロセスも、家族の良いコミュニケーションになるのではと今のお話を聞いて感じました。
■(3)もっと広がる道具の可能性/自宅で重要な生活動線の確保――に続く(リンク先)
(福祉用具の日しんぶん2019年10月1日号)