インタビュー・座談会

ヤマシタ・ウェルファン 中国合弁会社設立 日本の介護用品、巨大市場へ本格展開

ヤマシタ・ウェルファン 中国合弁会社設立 日本の介護用品、巨大市場へ本格展開

 ヤマシタ(静岡県島田市、山下和洋社長)とウェルファン(大阪府寝屋川市、清水義生社長)はこのほど、中国市場における介護用品販売事業を本格化するため、合弁会社「山下為楽帆(上海)事業発展有限公司」を設立した。ヤマシタが5年前から上海で展開する福祉用具レンタル、リフォーム事業に加え、ウェルファンの広範な商品調達力を武器に、巨大な中国の高齢者市場を開拓する。董事長としてトップに就任するヤマシタの永井新氏、ウェルファンの清水義生社長に合弁に至った経緯と今後の戦略を聞いた。

ヤマシタの基盤にウェルファンの調達力

 ――両社が組み、中国市場へ本格進出する経緯は。

 永井 当社は5年前に「山下福至(上海)健康管理有限公司」を設立し、上海市を拠点に福祉用具レンタル事業と住宅改修事業に取り組んできた。在宅の介護環境を整えるには、介護用品の「販売」が第3の柱として不可欠だと考えていた。
 一方で、一部の大手メーカーは中国進出を果たしているものの、その他多くのメーカーにとって、参入障壁は依然高いままとなっている。市場の大きさは理解しつつも、販路開拓などの悩みを抱えている。とはいえ、メーカー各社と個別に契約を結ぶには、当社だけでは限界がある。そこで、日本の介護用品で広範な調達網を持つウェルファン社へ協業を打診した。

 清水 永井氏から打診を受けたのは昨年の国際福祉機器展(HCR)だった。当社も、日本の85歳以上人口が2040年頃にピークを迎え、国内市場が将来的に頭打ちになることを見据え、海外マーケットへの課題意識を持っていた。「一緒にやりませんか」とのシンプルな誘いに「面白そうですね。やりましょう」と即答した。
 その後、ヤマシタ上海の視察で、現地の幹部から「介護で困っても、どの商品をどこで買えばいいか全く分からない」という中国の消費者が直面する実情を聞いた。これは、解決すべき社会課題であると同時に、必要な商品を届けることで生まれる大きなビジネスチャンスだと確信した。

――なぜ合弁会社か。

 永井 既存のヤマシタ上海の会社はレンタルを主事業とし、上海市に根付いている。販売事業を中国全土で展開するには、両社の合弁が適切だと判断した。当社の中国での販路やネームバリューと、ウェルファン社が持つ日本での仕入れルート、こうした互いの強みを活かすため、出資比率もほぼ折半とした。

 清水 当社がゼロから中国で、現地オペレーションや決済、人材の採用・管理などを構築するのは、膨大な時間と労力を要し、容易ではない。その点、合弁会社はパートナーの強みを活かして事業開始までの時間を大きく短縮できる。加えて、両社の利害が完全に一致し、メリットもデメリットも共有できるため、強固な信頼関係の構築にもつながると考えた。

EC・実店舗・行政で多角的に全土展開

 ――具体的な販売戦略は。

 永井 まず、中国でも購入手段として日常的なオンラインショップなどのECルートを確保する。並行して、商品選びに悩む高齢者層にはリアル店舗も重要になる。百貨店やGMS(総合スーパー)といった既存の流通チャネルを押さえていく一方で、年内には「日本の介護ショップ」のような自社コンセプトの店舗も数店舗開設する計画だ。高齢者の居住エリアに近い立地で、住環境をイメージしながら商品を選べるような店舗を目指す。
 さらに、各地方政府を通じた販売チャネルを構築する。直轄市や省ごとに異なる複雑な補助金制度の活用も視野に、自治体と連携しながら高齢者サポートの一環として日本の製品を提案していく。既存のレンタル利用者への直接販売も含め、多様なチャネルを同時に立ち上げていく方針だ。

 ――商品ラインナップは。

 清水 スタート時は、今年のチャイナエイド(上海国際福祉機器展)で協力いただいた15社のメーカーとともに、同展示会でも特に需要が高く多くの注文を獲得した介護シューズ、杖、歩行器などの外出支援用品を中心に展開する。今後は、「こういうものが欲しい」「高い」といった現地のマーケットの需要に対し、いかに柔軟かつ迅速に品揃えを調整していけるかが鍵となると考えている。
 先月のHCRの場でもメーカー各社へ協業を募るため、今回の合弁事業の背景説明に奔走したが、確かな手ごたえをつかんだ。大半が中国市場に強い関心を持ちながらも、「どうアプローチしていいか分からない」と足踏みしている状況だ。特に、個別に引合があっても決済、輸送、契約といった実務的な障壁がネックとなり商機を逃していたメーカーからは、「このスキームは非常に助かる」と好意的な反応が得られた。この中間流通機能こそ、メーカーが抱えていた課題を解決するものだと改めて感じた。

 ――「高品質な日本製」は価格競争面で不利では。

 永井 品質・機能面で差別化されたものを扱うため、現地の安価な製品と価格で勝負することは考えていない。ただ、価格の妥当性は重要であり、市場の反応は注視していかなければならない。

 清水 中国市場には、外見は似ていても、その機能が必要とされる理由が理解されないまま作られた介護用品も散見される。
 市場は初期段階で、介護先進国の製品に頼る傾向があるため、「高品質な日本製」への需要は非常に高い。機能面はもとより、「日本製」というブランドが持つ情緒的価値も大きいと感じる。

 永井 清水氏が指摘するように、中国市場には似た商品はあっても、機能面で利用者の視点が欠けたものが多い。中には、日本向けラインで製造された製品や、日本語表記のままの商品を求めるニーズさえ存在する。どの商品が自身の問題をどう解決するのか、その理解が消費者にまだ浸透していない。そのため、「こういう悩みに、この機能がこう役立つ」といった提案型の販売アプローチが不可欠だ。中国ではTikTokのインフルエンサーによる実演販売が定着しており、そうした手法にも挑戦したい。

5年後売上30億円へ日本の経験を共有

 ――将来の展望と抱負は。

 永井 2030年までに売上高30億円という目標を掲げている。これは決して容易な数字ではないが、参画メーカーの輪を広げ、販売チャネルを多角的に拡大していくことで、この高い目標も達成できると信じている。
 中国も高齢化が進み、日本が先行した道をたどっている。日本の過去の経験と教訓を共有し、在宅高齢者に快適な環境を提供することが我々の最大の使命だ。そして、この事業が日本メーカーの中国展開における課題を解決するチャネルとなり、日本が誇る高品質な製品を丁寧に販売していきたい。

 清水 シンプルだが、困っている人へその悩みを解決する製品を届けることに尽きる。世界に先駆けて超高齢社会を迎えた日本で長年培われてきた介護用品は、体型の似たアジアの高齢者にも広く活用される価値がある。この事業を通じて、中国の社会課題解決に貢献していきたい。
(シルバー産業新聞2025年11月10日号)

関連する記事

2024年度改定速報バナー
web展示会 こちらで好評開催中! シルバー産業新聞 電子版 シルバー産業新聞 お申込みはこちら

お知らせ

もっと見る

週間ランキング

おすすめ記事

人気のジャンル