インタビュー

「介護」を身近に感じる日/厚労省 定塚由美子さん【介護のキホン 3】

「介護」を身近に感じる日/厚労省 定塚由美子さん【介護のキホン 3】

 11月11日は「いい日、いい日」の「介護の日」。介護について理解を深め、啓発するために厚生労働省が定めました。同省の社会・援護局長、定塚由美子さんにお話をうかがいます。

介護の問題を一人で抱え込まない

 
 ――厚生労働省は11月11日を「介護の日」と定めています。「介護の日」とは、どういう日なのでしょうか。
 介護というのは、誰もが生涯のうちに関わるものです。自分自身が年老いていくと、やがて介護されることになりますし、親や家族を介護する立場になることもあります。今では介護を必要する要介護高齢者の数は600万人を超え、認知症や老老介護など、介護にまつわる課題は多様化してきています。
 そうした中で、介護をもっと身近に感じてもらうとともに、それぞれの立場で考え、関わってもらうことが大事だと考え、2008年度から11月11日を「介護の日」として定めました。覚えやすいように、「いい日、いい日」の語呂合わせにしています。
 ――介護をもっと身近に感じてもらう日なのですね。
 私自身、自分の父と主人の母の介護を同時に経験しました。父の方は、ある日突然、脳梗塞で倒れ、介護が必要な状態になりました。その後も後遺症で失語症になり、正直、すごく大変でした。母が懸命に介護し、週末に私たちが手伝いました。
 一方、主人の母は認知症でした。私達夫婦は主人の母と同じ敷地に住んでいましたので、毎日のように手助けをする状況でした。施設の見学にも行ったりしましたが、最終的には義母が自宅で暮らすことを強く希望しましたので、在宅で介護することにしました。
 夫婦共働きですので、朝は必ず私か夫が交代で食事と着替えの世話をし、それ以外は訪問介護や通所介護などのサービスを利用して、義母のケアをしてもらいました。介護保険がなければ、在宅での介護は実現できなかったと思います。制度のありがたみを実感しました。
 ――介護をされて、何か気が付かれたことはありますか。
 介護というと、どうしても大変さや不安などのマイナス面だけが捉えられがちですが、私が介護を経験して気付いたのは、人間関係が良くなるということです。
 義母と私は、嫁姑という関係なので、元気な時はお互い気兼ねしていた部分がありました。でも、介護が必要な状態になってくると、そうも言っていられません。これまでになく密接な関係が生まれますので、その中でお互いに気持ちが通じ合うところや、やさしい気持ちになれる部分がありました。そうしたことは、介護を経験するまでまったく想像していなかったことなので驚きでした。
 父と母の関係を見ても、介護を経験する中で、以前より仲睦まじくなっていった面がありました。介護は確かに大変ですが、長年の人間関係をより深めるというのが私の実感です。
 ――介護の問題を一人で抱え込まないことが大事なのですね。
 そうです。そのために介護の専門家に関わってもらうことも大事です。私の場合は、介護サービスを提供してくれる方々が、本当に親身になって、いろいろなことを手助けしてくれました。そのことで、大変な介護にも前向きな気持ちで取り組むことができました。
 ――より良い介護を行うために、どのような点が重要だと思いますか。
 やはり、ある程度心のゆとりがないと、良い介護はできないと思います。私の場合は、周囲の理解が心のゆとりにつながりました。
 女性でもそうですが、特に男性の方は、介護の問題を周囲に打ち明けることができずに、自分の中で抱え込んでしまっていることが多くあります。私が以前、内閣人事局で仕事をしていた時に、「仕事と介護の両立のために」という国家公務員向けのパンフレットを作成し、セミナーを開きました。そうすると、各省庁から驚くほどの参加者が集まりました。職場で介護の悩みを抱えている人が想像以上に多いことを知りました。
 ――介護の情報を集めることも必要です。
 子育ての場合は、ある程度、子供が生まれてくるまでの間に時間があるので、事前に情報を集めたりできるのですが、介護の場合は、ある日、突然という場合がほとんどです。いざ情報を集めようと思っても、目の前の対応に追われ、十分に集めることが難しいはずです。
 ですので、基礎的なことだけでもいいので、介護保険の仕組みやサービスの種類、いざという時の相談先として、地域包括支援センターやケアマネジャーが存在することなどを知っておくと、慌てずに済みます。あらゆる手を尽くして人材確保に努めていく

あらゆる手を尽くして人材確保に努めていく

 
 ――介護分野では、人材確保が大きな課題になっています。
 安倍総理は9月26日の所信表明演説で、「介護の仕事は、本当にやりがいがある。そのことを国民の皆さんに正しく理解してもらいたい」と介護福祉士を目指す学生、小金栞さんから聞いた言葉が耳から離れないと話し、「大きな希望を持って介護や保育の道に進んだ、こうした皆さんの高い使命感に、私たちはしっかりと応えていかなければなりません」と強調されました。
 そして、具体的に▽技能や経験に応じた給料アップの仕組みを創るなど処遇の改善に取り組む▽補助者の活用などにより現場の負担軽減を進める▽再就職準備金を倍増する――などを挙げ、「あらゆる手を尽くして必要な人材の確保に努めていく」と決意表明されています。
 私もまったく同じ思いであり、必要な取り組みを進めていきます。
  ――介護人材の確保はどのようなイメージで図っていくのですか。
 裾野を広げる観点から、多様な人材の参入促進を図っていきます。今は60歳を過ぎても元気な方がたくさんいますし、子育てが一段落して、社会貢献したいと考える主婦の方もいます。そうした方々に介護の仕事に入ってきてもらいたいと考えています。
 さらに、入職された後もキャリアアップができるように、専門性の明確化や高度化を図り、山を高くしていきます。イメージとしては、富士山のような形で山が高く裾野を広く、人材の確保を図っていきたいと考えています。
 ――介護現場で働く人、これから介護分野に入職しようとしている人にメッセージを。
 介護福祉士を目指す学生さんが安倍総理に話されたように、仕事を選ぶときの最も重要なポイントは、やはり、やりがいです。介護は大変な仕事とのイメージが強調され過ぎて、誤解を与えてしまっている部分があります。介護職の方は日々、利用者と向き合いながら対人援助職としてのやりがいを実感されています。「介護の日」を通じて、そうした思いをしっかりPRしていきたいと思っています。
(プロフィール)
 厚生労働省社会・援護局長
 1962年生まれ。84年東京大学法学部卒業。同年労働省入省。内閣府男女共同参画局推進課長(2004年)、厚生労働省社会・援護局福祉基盤課長(10年)、内閣官房内閣人事局内閣審議官(14年)などを経て、16年6月より現職

(介護の日しんぶん2016年11月11日)


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