インタビュー・座談会

ケアマネ協柴口会長 自己負担導入は「自立支援のケアマネジメントを阻害」

ケアマネ協柴口会長 自己負担導入は「自立支援のケアマネジメントを阻害」

 2019年6月の総会で再任を果たした日本介護支援専門員協会の柴口里則会長。任期中に2021年制度改正を迎える。特にケアマネジャーにとって大きな争点となるのが、居宅介護支援費の利用者負担導入だ。前回の法改正でも論点となり、介護保険部会でも賛否が分かれただけに、次期改正はまさに正念場といえる。柴口会長は「自立支援のケアマネジメントを阻害する」と変わらず反対姿勢を貫く構えだ。2期目の「柴口体制」は次期制度改正にどう臨むのか。柴口会長に聞いた。

費用負担が利用者とのバランスを崩すことに

 ――居宅介護支援費の利用者負担導入論について。

 利用者負担の導入については、昨年4月に会長名で反対の意見表明をしたが、もちろんその姿勢は崩していない。その根拠は「自立支援のケアマネジメント」を阻害しかねないからだ。現場感覚でそれを危惧している。私達がすべきことは、利用者・家族が不利益にならないよう、質の高いケアマネジメントを実践し、その基盤となる制度設計や運用にしっかり関与していくことである。

 アセスメントによりニーズを把握し、自立支援に結び付けるのがケアマネジメントだが、実際には「ヘルパーに来てもらいたい」「トイレに手すりをつけてほしい」など、初めからサービスありきの利用者・家族も決して少なくない。最前線のケアマネジャーは、そうした要望にしっかり耳を傾けながらも、場合によっては説明や相談を重ねて、できる限り本人の自立支援に繋がるプランを提案している。

 非常に難しいバランスの中で、ケアマネジャーが利用者としっかり向き合い、実践されていることだ。ここに利用者負担が発生し、「お金を払っているのに希望通りのプランにしてくれない」となれば、なんとか保たれていたバランスがたちまち崩れてしまいかねない。その結果、いわゆる「いいなりプラン」が増え、介護保険が目指す自立支援とは全く逆方向へ行ってしまうのではという懸念がある。

 財務省は「負担がないことで利用者が質のチェックが働かない構造になっている」と主張するが、費用負担を求めれば、むしろ希望通りにしてくれるケアマネジャーが良いケアマネジャーと評価されてしまうおそれもある。こうした懸念が払しょくされない限り、利用者負担の導入は時期尚早であると訴えていく。

 ――財務省は、「複数の事業所のサービス内容と利用者負担について説明を義務化すること」も求めています。

 これもすでに意見表明を行っているが、複数事業所の紹介自体を否定はしないし、むしろ利用者の自己選択を支援するために、制度化されるまでもなく、これまでも当たり前に取り組んできたことだ。

 ただ、当協会が行った緊急調査では、複数事業所の紹介が利用者から求められる割合は「ほとんど求められない」45.1%、「全く求められない」が3.9%。複数事業所の紹介ができることを説明していても、およそ半数のケアマネジャーが「ほとんど」もしくは「全く」求められていないと回答している。ケースに依らず、全て義務化してしまっては却って利用者を混乱させるだけだろう。

 また、財務省案では利用者負担についても説明するとしているが、不必要に費用の多寡だけが強調されれば、利用者に「安い事業所のほうが良いのか」という誤解を生んでしまうかもしれない。これも質の高い取り組みを加算で評価する制度と逆行する考えだ。

管理者要件厳格化 「経過措置の延長が必要」

 ――居宅介護支援事業所の管理者要件が主任ケアマネジャーに限定されます。

 2018年の介護報酬改定で位置づけられ、現在は3年間の経過措置期間中となっている。当初、国は期限の21年度までに十分な数の主任ケアマネジャーが養成されると説明していたが、実際には5年間の実務経験など、主任ケアマネジャーになるための要件を経過措置中に満たせないなどの声が寄せられている。より高い技能や経験を持つケアマネジャーに管理者を任せることはもちろん賛成だが、予定通りに21年度に施行されれば、現場や利用者に大きな影響が及ぶ。経過措置期間の延長を求めていく。

 ――昨年のケアマネ試験では受験者ベースで前年比6割減、合格者は8割以上と激減しました。

 受験資格の厳格化、ベテラン介護福祉士への手厚い処遇改善など、さまざまな要因が考えられる。この傾向が今後も続くのかをしっかりと注視していかなければならない。ただ、これは全く個人的な意見だが、私自身はそれほど悲観的にはみておらず、処遇改善ももちろん重要だが、「やはりケアマネジメントがしたい」と意欲の高い人が集まってくれれば、全体の質の向上に向かうのではないか。

 ――今月には全国大会を控えています。

 8月31日、9月1日に徳島県で「第13回日本介護支援専門員協会全国大会in四国」を開催する。「つながり 支え愛 広がる未来」を大会テーマとした。分科会は「医療との連携」「地域多職種連携」「認知症ケアマネジメント」「権利擁護」「施設ケアマネジメント」の5つのテーマを設けた。ケアマネジメントの高い知見や実践を共有できる機会なので、ぜひ多くの方に参加いただきたい。

(シルバー産業新聞2019年8月10日号)

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