未来のケアマネジャー

「あたりまえの生活」を守る技術・尊さ/石山麗子(連載12)

「あたりまえの生活」を守る技術・尊さ/石山麗子(連載12)

 2019年もいよいよ最後の月。この時期、ケアマネジャーが行うモニタリングはいつもとは違う。そのことをご存知だろうか。「年末年始のサービス調整」だ。これを全ての利用者について確実に行わなければ、大ごとに発展する恐れすらある。

 年末、寒さは増すだけでなく底冷えに変化していく。社会全体の動きは、スローモーションになり、介護事業所も例外ではなく年末年始休の有無が周知される。当然ながら利用者は通常月のケアプランどおりにサービスを利用することはまず不可能だ。お正月は利用者の生活も緩やかになり、いや率直にいえば不規則になり、普段とは違う家族の動きや季節要因もあいまって心身機能の変化を招きやすい。生活は本来365日途切れはないのだが、セルフマネジメントの一部や全部を他者に頼らざるを得ない介護保険の利用者は、季節特有の社会的な影響も受けやすい。そこに拍車をかけているのは近年の慢性的・加速度的な人材不足だ。

 魅力ある職場の条件とはなんだろうか?休みの融通が利くことも選択される理由の一つになるだろう。年末年始に人手を確保することは経営者や管理者にとって至難のわざだ。手薄い支援体制のなか、一年に一度の特別な環境のなかでの利用者の状態変化とその度合いも含めて予測できるのがプロフェッショナルのケアマネジャーだ。

 一方で資源が限られている中での年末年始のサービス調整、その高度な技術についてどれだけのケアマネジャーがその実践を社会に見える化してきただろうか。「ケアマネジメントの質の向上」を謳う行政は内に秘める専門性ともいうべきこの行為の存在と意味を理解していただろうか。いま「ケアマネジメントの質」の定義や評価が求められている。その目指すべき質とは何か、ケアマネジャーは「日常の生活が営める」ように支援する責任がある。あたりまえの生活を継続できるよう支援すること、非常に地道な行為だ。それを支える専門職に、華ばなしい目に見える効果など求めにくい。

生活の揺らぎを捉え、予測して支援する

 正しいモニタリングとはなにか。行政からみれば法令順守を第一に月1回以上、自宅訪問し本人と面会、それが適切に記録されていれば適正だ。法令は最低基準だ。だからその基準を強固な骨格とし、そこにケア論が加わることで機械的でない人としての関わりが醸成されていく。

 モニタリングは時間経過と多くの変数を掛け合わせ予測を行う。年末年始にみるべき変数とは、例えば季節、疾患、現状の体力・意欲、・家族状況・家族の関係性などで、この時期普段より家族のかかわりの頻度が増え、サービス量が減ることで虐待の可能性にも配慮が必要である。不規則で不活発な生活から認知機能の低下も予測されるし、冬季の室内環境の整備等もあげられる。私自身もケアマネジャーだった頃、年末年始は利用者の状態悪化や虐待のおそれなどもあり、常に携帯電話は肌身離さなかった。年明けの利用者の状況把握にも緊張感を感じていた。ケアマネジャーの方には是非「年末年始業務」を着実に実行していることを誇りに思って欲しい。

 心身機能の改善効果も、看取りも高度な専門性として評価してほしいが、生活の支援における専門性として、このような「内に秘めたる専門性」にも是非目を向けてもらいたい。そしていつも利用者の「あたりまえの生活」を支えるため、走り続けているケアマネジャーの皆さまには、年末年始がケアマネジャーの方それぞれの、あたりまえの生活を営める時間であってほしい。そして2020年、介護保険制度施行から20年を迎える新たな節目に、ケアマネジャーの未来を拓く為に英気を養い、次の時代の開拓者となり活躍することを願っている。
 石山麗子(国際医療福祉大学大学院教授)

(シルバー産業新聞2019年12月10日号)

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