連載《プリズム》
プリズム(2025月10月10日号) 人生100年時代の到来
厚労省は9月1日現在で、住民基本台帳に基づく百歳以上の人口が9万9763人に達したと発表した。前年より4644人増加し、55年連続で過去最多を更新した。百歳を超える高齢者は、政府が長寿者を表彰し始めた1963年には153人に過ぎなかったが、1981年には1000人を突破し、1998年には1万人を超えた。そして今、10万人の大台が目前に追っている。
「人生100年時代」の到来は、医学の進歩や生活環境の改善がもたらした人類の大きな成果である。その一方で、社会の制度や人々の意識は、この変化のスピードに追いつけていない。かつては65歳を「老い」の始まりと見なしてきたが、現代ではその区切りが実態にそぐわなくなりつつある。
実際、日本老年学会・日本老年医学会は2017年に「現在の高齢者は10〜20年前と比較して、加齢に伴う身体・心理機能の変化の出現が5〜10年遅れている」と発表し、高齢者の定義を「75歳以上」とするよう提言している。健康で働く意欲のある人々を65歳で一律に「高齢者」と見なすことは、社会の活力を削ぐだけでなく、年金・医療・介護といった社会保障制度の持続可能性をも狭めている。
「高齢者が若返った分だけ、社会保障の支給開始年齢を引き上げればよい」という話ではない。65歳でも現役さながらに活躍できる人がいる一方で、医療や介護を必要とする人も少なくない。大事なのは「年齢一律の線引き」ではなく、高齢期の多様性を前提にした制度や社会にシフトできるかどうかである。健康で意欲のある人には就労や社会参加の場を広げ、支援を必要とする人には安心して医療や介護が受けられる制度を整える。その柔軟で多層的な仕組みこそが、人々が「人生100年時代」を豊かに生きるカギとなる。
(シルバー産業新聞2025年10月10日号)
「人生100年時代」の到来は、医学の進歩や生活環境の改善がもたらした人類の大きな成果である。その一方で、社会の制度や人々の意識は、この変化のスピードに追いつけていない。かつては65歳を「老い」の始まりと見なしてきたが、現代ではその区切りが実態にそぐわなくなりつつある。
実際、日本老年学会・日本老年医学会は2017年に「現在の高齢者は10〜20年前と比較して、加齢に伴う身体・心理機能の変化の出現が5〜10年遅れている」と発表し、高齢者の定義を「75歳以上」とするよう提言している。健康で働く意欲のある人々を65歳で一律に「高齢者」と見なすことは、社会の活力を削ぐだけでなく、年金・医療・介護といった社会保障制度の持続可能性をも狭めている。
「高齢者が若返った分だけ、社会保障の支給開始年齢を引き上げればよい」という話ではない。65歳でも現役さながらに活躍できる人がいる一方で、医療や介護を必要とする人も少なくない。大事なのは「年齢一律の線引き」ではなく、高齢期の多様性を前提にした制度や社会にシフトできるかどうかである。健康で意欲のある人には就労や社会参加の場を広げ、支援を必要とする人には安心して医療や介護が受けられる制度を整える。その柔軟で多層的な仕組みこそが、人々が「人生100年時代」を豊かに生きるカギとなる。
(シルバー産業新聞2025年10月10日号)